Overview
GHG排出量の算定・報告をめぐっては、要件を定めたフレームワークや基準が乱立しています。 こうしたフレームワークは、時とともに進化してきました。
フレームワークとは、報告書を「どのように」構成するかを定めた原則やガイドラインの集合体のことです。
基準とは、各トピックごとに「何を」報告すべきかについて、要件を準拠しやすい形で具体的かつ詳細に定めたものです。
乱立するサステナビリティ基準
これまで、ESGの取り組みをサポートするためにさまざまなフレームワークや基準、団体が立ち上げられてきましたが、全体としては、いささか乱立気味の状態です。
CDP
CDP は2000年に設立された非営利団体で、以前は「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」という名称でした。 投資家、企業、都市、州・都道府県、地域が環境負荷を管理する際に必要となる情報を開示するシステムを運営しています。
CDPでは、以下の3つの重点分野について報告書やリソースを提供しています:
- 気候変動
- 水
- 森林
企業や組織が質問書に回答し、それを基にCDPがスコア(A+、B、Cなど)を付けます。 スコア付けされた質問書はエクスポート可能なため、主要なステークホルダーに共有することができます。
CDPは、組織の自己報告情報を集めた世界最大のデータベースです。このためCDPは、世界経済において環境報告のゴールドスタンダードとみなされています。
PCAF(金融向け炭素会計パートナーシップ)
PCAFは、世界の金融機関が加盟する国際的なイニシアティブです。投融資先の排出量を算定・報告するための世界的な標準手法を求める業界の声に応え、2020年にPCAFスタンダードを公表しました。PCAFスタンダードは、GHGプロトコルのスコープ3、カテゴリー15(投資活動)にさらなるガイダンスを追加する目的で作成されました。
PCAFスタンダードは、以下の6つの資産クラスに関連する温室効果ガス排出量の算定・開示について、詳細な方法論ガイダンスを示しています:
- 上場株式と社債
- ビジネスローンと非上場株式
- プロジェクトファイナンス
- 商業用不動産
- 住宅ローン
- 自動車ローン
GHGプロトコル
このモジュールで、GHGプロトコルと言う場合、コーポレートスタンダードのことを指します。
コーポレートスタンダードの初版は2001年に公表されました。
GHGプロトコルは、民間・公共セクターの活動、バリューチェーン、および緩和策からの温室効果ガス排出量を算定・管理するための世界標準のガイドラインを定めています。
責任投資原則(PRI)
PRIは、投資の意思決定プロセスに環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を組み入れることにより、投資におけるサステナビリティの促進を目指す国際組織です。
PRIは、メンバーである署名機関を支援するために、ESGが投資に与える影響について詳しく解説し、その知識を実際の投資判断に生かせるようにしています。
現在、PRIの署名機関の運用資産総額は120兆ドルを超えます。PRIの目的は、これらの資産の運用を「ネットゼロ排出」等の重要なサステナビリティ目標に合致させること、および国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて実際に行動できるようにすることです。 PRIは、全署名機関にサステナビリティ投資の6つの原則を守らせることで、その目的を果たそうとしています。
グラスゴー金融同盟(GFANZ)
2021年4月に発足したGFANZは、ネットゼロ経済への世界的な移行を加速させるために集結した金融機関の有志連合です。 GFANZの発足メンバーには、バンク・オブ・アメリカ、サンタンデール、ナットウエストなどの世界最大級の銀行や、ブラックロックなどの資産運用会社、それにロックフェラー財団などのアセットオーナーが名を連ねています。 これらの主要メンバーがGFANZの戦略と方向性を舵取りし、目標の進捗状況を追跡しています。
GFANZは、国連気候変動問題担当特使のマーク・カーニー氏とCOP26議長のアロック・シャルマ氏によって設立されました。GFANZは、企業、都市、金融機関、教育機関によるネットゼロ目標の設定・達成を支援する国連主導の世界的キャンペーン「Race to Zero」に参画しています。
GFANZには現在、資産総額130兆ドルを超える世界最大級の金融機関450社以上が加盟しています。2050年までに排出量をネットゼロに削減し、気候変動を緩和するという共同目標を掲げています。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
TCFDは2017年に、業界を限定しない気候関連情報開示フレームワークを策定しました。そこでは、以下の4つの主要分野における11の項目について開示を推奨しています:
- ガバナンス
- 戦略
- リスク管理
- 指標と目標
TCFDが開示項目を推奨する狙いは、企業に質の高いデータを提供させることにより、十分な情報に基づいた資本配分決定を促すことにあります。 CDPとは異なり、TCFDに従って報告してもスコアは与えられません。それでもTCFDは、その考慮の深さから、各地の規制当局に最も広く受け入れられているフレームワークとなっています。
グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)
GRIは、1997年に設立された国際的な独立基準機関です。企業、政府、その他の組織が、気候変動や人権、汚職などの問題に及ぼしている影響を自ら理解し、公表できるよう支援しています。
GRIが提供するGRIスタンダードは、サステナビリティ報告書の作成基準として広く利用されています。
価値報告財団(VRF)
VRFは、旧SASBとして2011年に設立された国際非営利団体です。企業や投資家が、企業価値がどのように創造、保全、毀損されるかについての共通理解を得られるようにするための包括的なリソースを提供しています。
リソースは以下の通りです:
統合思考原則
取締役会および経営陣による計画策定と意思決定のためのガイダンス
統合報告フレームワーク
統合報告書を作成するための、原則に基づいたマルチキャピタルのガイダンス
SASBスタンダード
企業が財務的なサステナビリティに関する情報を特定・管理し、投資家に伝える上で参考になるツール
ISO14064
2006年に制定されたISO 14064は、温室効果ガス排出量の算定・報告に関する国際規格です。 この規格は、国際標準化機構(ISO)の環境管理規格の一部で、3つのパートに分かれています。各パートは、それぞれ異なる技術的アプローチを採用しています。
パート1は、ボトムアップ方式でデータ収集を行う組織を対象とした、温室効果ガスインベントリの定量化に関するガイダンスです。
パート2は、個々のプロジェクト活動による排出量の定量化と報告に関するガイダンスです。
パート3は、組織の排出量算定の妥当性検証に関するガイダンスです。
ISO 14064 は、規格の改善と微調整が繰り返され、継続的に更新されています。 ISO14064は、GHGプロトコルから派生しており、これに整合しています。 両者の違いは、GHGプロトコルがGHGインベントリを作成するための模範的取り組みを示しているのに対し、ISO14064は最低限の遵守基準を示しているという点です。 微妙に異なりますが、両者は互いに補完し合っています。
最後に
最後にGHG排出量算定・報告のフレームワークについてまとめておきます。一般の事業会社では、GHGプロトコルがガイダンスとして最も広く利用されています。他方、金融機関では、GHGプロトコルに基づいて策定されたPCAF(金融に関わる炭素会計のパートナーシップ)が参照されています。