Overview
PCAFの原則
オーバービュー
PCAFのフレームワークは、GHGプロトコルの要件を満たしたスタンダードであることを示すBuilt on GHG Protocolマークを取得しています。
GHG排出量算定・報告の原則
GHGプロトコル:
GHGプロトコルは、5つの基本原則を定めています。
- 完全性
- 一貫性
- 関連性
- 正確性
- 透明性
PCAFスタンダード:
PCAFスタンダードは、上記の基本原則を踏まえた上で、さらに金融機関に特化した5つの原則を定めています。
- 認知度
- 測定値
- 帰属性
- データ品質
- 開示報告
PCAFの原則を詳しく見てみましょう。
認知度
この原則は、金融機関に投融資先の排出量の算定・報告を求めるものです。 報告の一貫性を保つため、金融機関は以下のいずれかの方法を用いて開示を行う必要があります。
財務支配力基準
財務支配力基準を用いる場合、報告組織は、自らが財務方針・経営方針に直接影響力を持ち、経済的利益を得ることのできる活動について、全排出量を報告する必要があります。
経営支配力基準
経営支配力基準を用いる場合、報告組織は、自らまたは子会社が経営方針を導入・実施することのできる事業からの全排出量を報告する必要があります。
これらの基準を用いれば、投融資先の排出量をスコープ3のカテゴリ15で適切に計上することができます。
また金融機関は、対象から除外する情報がある場合は、明確な説明を行う必要があります。
十分なデータが入手できない場合や、活動が小規模で、投融資先の総排出量に占める割合が低い場合は、その情報を対象から除外することができます。
測定値
金融機関はPCAFの方法論を用いて、各資産クラスの排出量を算定・開示することを求められています。 可能な限り「資金の流れを追跡」し、気候への影響を把握しなければなりません。
金融機関は最低でも、絶対排出量を算定する必要があります。 妥当であれば、炭素強度を報告することもできます。 また、削減貢献量と排出除去量についても、データが入手でき、適用可能な方法論がある場合は算定することができます。
絶対排出量
PCAFは、絶対排出量を「ひとつの資産クラスまたはポートフォリオのGHG総排出量」と定義しています。
炭素強度
PCAFでは、炭素強度を「絶対排出量を投融資額で割ったもの」と定義しています。 金融機関はセクターごと、資産クラスごと、ポートフォリオごとの炭素強度を「投融資額100万ドル(またはユーロ)当たりの二酸化炭素換算メートルトン」で表す必要があります。単位は以下の通りです。
tCO2e/M$ or tCO2e/M€
削減貢献量と排出除去量
排出除去量(炭素回収・除去量)とは、いったん排出された後に、大気中から取り除かれた温室効果ガス量のことです。
削減貢献量とは、本来ならば排出されたはずだが、排出が回避された温室効果ガス量のことです。 削減貢献量は、2種類に分けられます:(1)カーボンオフセットによるもの、(2)直接的な炭素削減策によるもの。
注:PCAFでは、金融機関が削減貢献量または排出除去量を開示することを選択した場合、スコープ1、2、3のインベントリとは別に報告するよう要求しています。
企業のGHG排出量の算定・報告は、以下の要件に従って行う必要があります。
- 通常の財務会計期間に合わせて行う。
- 少なくとも毎年1度、同じタイミングで報告する。
- 報告期間の排出量を正確に表示する。
- 算定結果に影響を与えた可能性のある、大きな変化・変更について公表する。
- スコープ1と2の絶対排出量を開示する。また、GHGプロトコルのガイダンスに従い、関連するスコープ3の排出量を開示する。
- 資産クラスごと、またはセクターごとの排出量データを計上する。
金融機関は排出量を算定するに当たり、以下のガイドラインに従う必要があります。
- 京都議定書で指定されたガスの排出量を算定する。
- 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(AR5)または最新の評価報告書のいずれかを用いて、各ガスの排出量を二酸化炭素換算値(CO2e)に換算する。
- 二酸化炭素換算メートルトン(tCO2e)またはその他の適切なメートル法換算値で表す。
帰属性
金融機関には、投融資額に比例した排出量を割り当てなければなりません。 そのためには、排出寄与度を算定する必要があります。
排出寄与度とは、投融資先の年間GHG総排出量のうち、金融機関の投融資に起因する割合のことです。 排出寄与度は、投融資先の排出量の算定に用いられます。
排出寄与度の計算
投融資先の排出量を算定するには、まず排出寄与度を計算します。排出寄与度は、金融機関の投融資残高を、投融資先の企業または資産の総投資・貸付残高で割ることによって求められます。
上記で求めた金融機関固有の排出寄与度を、投融資先の総排出量に掛け合わせれば、投融資先の排出量が算定されます。
各資産クラスごとに、排出量を正確に算定するための個別の方法論が定められています。 それぞれの方法論によって、算定方式は異なります。また、対象とする範囲や必要なデータセットも異なるため、妥当性の度合いには差があります。
各資産クラスの算定方式を以下にまとめています。
PCAFスタンダードでは、排出寄与度という同様の原理をすべての資産クラスに適用しています。 金融機関がこの方法に従うことは、非常に重要です。これにより、(1)すべての資産クラスの分母に共通の原理を適用すること、(2)投資残高と貸付残高を同等に重視して算定を行うこと、(3)二重計上を防ぐこと、が可能になるからです。
二重計上
投融資先の排出量の算定において、同一の排出が1つまたは複数の金融機関で、2回以上重複して計上された場合、二重計上となります。
金融機関は事業形態が複雑で、同じプロジェクトや企業に対して、貸付残高と投資残高の両方を有している場合も珍しくありません。そのため、二重計上に注意することは特に重要です。 PCAFは、二重計上をできる限り最小限に抑えるよう金融機関に奨励しています。
データ品質
金融機関は、情報開示に当たり、入手できる最高品質のデータを使用しなければなりません。また、データ品質を高めるための段階的計画を立てる必要もあります。
金融機関の排出量を正確に反映し、意思決定者にとって使いやすい情報を提供するためには、質の高いデータが不可欠です。
しかし、質の高いデータを入手することは難しく、その点はPCAFも認識しています。 投融資先から質の高いデータを取得できないことは多々あります。 金融機関は、データが不完全な場合や入手できない場合、代わりのデータを用いてその穴を埋めることができます。
レポート期間
また、異なる年に収集したデータを使わざるを得ない場合もあります。
例:
入手できる最新の情報が、2020年と2018年の財務データである場合は、それらのデータを組み合わせて使用する必要があるかもしれません。
PCAFは、入手できる最新のデータを使用すること、そしてそれらを可能な限り調整することを推奨しています。
データ品質スコア
PCAFは、金融機関が情報の信頼性を評価できるよう、データ品質スコアのガイダンスを提供しています。 スコアは1から5まであり、1が最も質の高いデータ、5が最も質の低いデータとなっています。
.データ品質基準
データ品質基準は、資産クラスによって異なります。 金融機関はPCAFのガイダンスに従い、どのようにデータ品質を評価したかを説明しなければなりません。 データ品質スコアについては、スコープ1、2の排出量と、スコープ3の排出量とで分けて報告する必要があります。
基準の再計算方針
金融機関は、基準年度の投融資先の排出量を再計算する必要が生じた場合に備え、基準の再計算方針を定めておく必要があります。 基準年度の投融資先の排出量は、目標設定からシナリオ分析まで、あらゆる場面で使われます。 データの妥当性と比較可能性を高めるため、この数値の再計算が必要になる場合があります。 また金融機関は、この方針の中で、再計算が必要となる事態を特定する必要もあります。
情報開示
算定結果を公表することは、金融機関にとって大きな意義があります。投融資先の排出量を他の金融機関と比較することや、パリ協定の目標に自分たちがどれだけ貢献しているかを確認することが可能になるからです。 また、金融セクター全体が、投融資による環境負荷を明確に理解することにもつながります。
比較可能で質の高い開示を続けていくには、PCAFの要件や提言、方法論に従うことが鍵となります。 なお、開示情報はオンラインおよびその他の媒体を通じて、誰もがアクセスできるよう公開する必要があります