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EUの炭素国境調整措置(CBAM)とは? 〜知っておくべき国境炭素税の概要〜

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Article Overview

炭素国境調整措置(CBAM)」は、炭素税と関税をかけ合わせた"炭素関税"です。温室効果ガス(GHG)排出量の多い輸入品を対象に、欧州連合(EU)が導入を予定しています。CBAMが導入されれば、対象品目の生産工程でのGHG排出量を毎年開示することや、CBAM証書を購入して「排出対価」を支払うことが企業に義務付けられます。

欧州連合(EU)は2019年、脱炭素と経済成長の両立を図る成長戦略「欧州グリーンディール」を発表し、大胆な目標を定めました。GHG排出量を2030年までに1990年比で55%削減し、2050年までにネットゼロ(排出量実質ゼロ)を達成する、という目標です。その後、一連の包括的な気候政策を打ち出し、達成に向けて取り組んでいます。

本記事では、欧州グリーンディールが打ち出す政策の中の一つ「炭素国境調整措置(CBAM)」を取り上げます。CBAMは、EU域内に輸入される高排出製品に炭素税を課すことで、その生産に伴う排出量を減らすことを目指す施策です。以下、課税の仕組みや導入理由、企業ができる準備についてご説明します。

炭素国境調整措置(CBAM)とは?

CBAMの概要

炭素国境調整措置(CBAM)」は、炭素税と関税をかけ合わせた"炭素関税"です。温室効果ガス(GHG)排出量の多い輸入品を対象に、欧州連合(EU)が導入を予定しています。CBAMが導入されれば、対象品目の生産工程でのGHG排出量を毎年開示することや、CBAM証書を購入して「排出対価」を支払うことが企業に義務付けられます。

EUはすでに「排出量取引制度(EU-ETS)」というキャップ・アンド・トレードの仕組みを導入しており、それを補完するためにCBAMが存在します。排出量取引制度を理解することは、CBAMの理解につながるでしょう。排出量取引制度は「カーボンアローワンス(排出枠)」を利用して、域内企業のGHG排出量を制限する政策です。規制対象となる企業は、無償割当や購入を通じて排出枠を取得します。取得した排出枠の量に応じて、排出を認められる量の上限(キャップ)が決定します。その上限を超えてGHGを排出す場合は、追加の排出枠を購入する必要があります(トレード)。炭素国境調整措置(CBAM)は輸入品に課される(炭素)関税ですが、排出枠の取引と根本的な理屈は同じです。CBAMでは、対象品目を輸入する企業に、その製品の内包排出量に対する支払いが課されます。支払いは証書の購入を通じて行います。証書の価格は、排出量取引制度における排出枠の有償割当(オークション)の週平均価格と連動しています。参考までに、2022年12月1日の価格は二酸化炭素換算1トン(1 tCO₂e)当たり85.22ユーロでした。

CBAMの対象

CBAMの対象となるのは、排出量が多いために規制導入が不可欠で、行政管理が現実的に可能とEUが判断した産業グループです。具体的な産業として、セメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素が指定されています。

欧州理事会(全EU加盟国の首相・大統領などで構成)と欧州議会(加盟国民の直接選挙で選ばれた欧州議員で構成)の暫定合意によると、CBAMは排出量取引制度の対象でもある3種類のGHG(CO₂、一酸化二窒素=N₂O、パーフルオロカーボン=PFC)について、排出量の継続的な把握を輸入企業に義務付けます。輸入企業は、製品の「直接排出量」と「間接排出量」の両方に責任を持つことが期待されています。この暫定合意では「直接排出」を「製品の生産工程からの排出を指し、生産工程で消費される熱・冷気の生成で生じる排出を含む」と定義しています。また、「間接排出」については、「生産工程で消費される電力の生成で生じる排出」と定義しています。排出量報告の国際基準「GHGプロトコル」に馴染みのある方なら、「直接排出」はスコープ1、「間接排出」はスコープ2に相当すると考えて概ね差し支えありません。

内包排出量は製品の生産工程からの総排出量を総生産量で割って算出し、tCO2eで報告します。算出に関する詳細なガイダンスは、暫定合意付属書3で示されています。

炭素国境調整措置(CBAM)例外

暫定合意によると、原産国で炭素税を課された輸入品には課税の減額が認められます(9条参照)。原産国とEUによる二重課税を避けるためです。また、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスからの輸入品には、CBAMは適用されません

炭素国境調整措置(CBAM)の施行管理

EBAMの施行管理では、欧州委員会(EUの行政機関)が中心的な役割を担い、輸入企業とのやりとりは主に加盟各国の機関が担います。

炭素国境調整措置(CBAM)施行の理由

CBAM導入の目的は、排出規制が相対的に緩い地域への生産移転による規制逃れ、いわゆる「カーボン・リーケージ(炭素漏れ)」の解消です。

カーボン・リーケージには、主に2つの形があります。1つは、企業が炭素税を逃れるため、規制地域の外へと生産を移す形。もう1つは、規制の緩い地域からの輸入品が、規制のある地域で作られた製品に取って代わる形(規制の緩い地域の製品の競争力が高まったため)です。

カーボン・リーケージの防止はEUの排出量取引制度において長年の課題です。EUは最初、リーケージが最も生じやすい産業に排出枠を無償で割り当てる対策を講じました。結果、リーケージは減ったものの、脱炭素目標を達成するという取引制度本来の効力が弱まってしまいました。排出枠を無料でもらえるために、企業の排出削減意欲が湧きにくくなったのです。排出枠の無償割当は現在も続いています。一方で、将来のことを考えずに無償割当を廃止にすればそれがきっかけで大量のリーケージが発生しかねません。CBAMの仕組みは、この問題を解消するためにつくられました。

CBAMは、域内製品への排出枠無償割当を段階的に廃止しながら、域外製品への炭素税を段階的に導入する予定です。このように、2つの施策を同時に行うことで輸入品と域内製品の公平性を確保し、リーケージを最小限に抑えながら産業界への脱炭素圧力を強める方針です。

炭素国境調整措置(CBAM)導入で何が変わるか

EU関連のビジネスにおけるすべてのステークホルダーが知っておくべきCBAMの影響として、以下の4点が挙げられます。

  • 気候規制の先導役としてのEUの地位向上:EUは排出量取引制度により、炭素市場で主導的な立場をすでに確立しています。また、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)金融機関向け情報開示規制(SFDR)により、気候情報開示の分野でも先駆けとなっています。今回の炭素国境調整措置(CBAM)の導入もこれまでの流れを汲んでいます。
  • EUが欧州基準を世界に「輸出」する傾向が継続:EUが一般データ保護規則(GDPR)を施行したことで、世界中の企業がデータプライバシーの保護に力を入れるようになりました。CBAMの施行でも、世界中の生産者が自社製品の内包排出量を重視するようになることが予想されます。今後、グローバル企業が、EU市場での販売競争力を維持・向上するうえで、GHG排出量の削減はますます必要とされるでしょう。
  • 炭素強度の高い製品が値上がりする可能性:排出量取引制度での排出枠の無償割当が段階的に廃止され、CBAMによって輸入品に炭素税が課されることで、内包排出量の多い製品の価格が上昇するかもしれません。開発途上国や後発開発途上国では、GHG排出量の正確な算定や削減に必要なリソースが十分に確保できないことが原因となり、貿易競争力が低下する、という事態も起こりえます。EUはこうしたリスクを認め、途上国に技術支援や(場合によって)資金協力を行うことを確約しています。
  • 企業のGHG排出量報告・開示において、洗練されたテクノロジーがますます求められるように:製品の内包排出量の開示を義務付けられる企業では、正確で信頼できる炭素会計ツールを活用し、算定などにかかる費用を最小限に抑えることが必要になります。ソフトウェア・プラットフォームを使えば、CBAMの規則に準拠したかたちで、製品の排出量を算定し、継続的に管理、そして情報開示することが可能になります。

CBAMの採択と施行

2023年10月に移行期間が始まり、2026年から本格的に施行されます。詳細は以下の通りです。

2022年10月13日:欧州理事会と欧州議会がCBAMについて政治的合意に達しました。これは暫定合意であり、2023年10月までに両機関がCBAMを正式に採択する予定です。また、専門家主導のCBMA委員会による助言の下、欧州委員会が詳細な施行ガイドラインを作成します。

2023年10月1日:正式な移行期間の開始。移行期間に課される義務は、輸入品の内包排出量を四半期ごとに報告することのみ。証書購入による排出対価の支払いは必要ありません。その後、移行期間の総括を通じ、CBAMの有効性や追加すべき対象産業グループ・品目が検討されます。

2026年1月1日:CBAMの本格施行。輸入企業は製品の内包排出量を開示し、CBAM証書を使って排出対価を支払わうことが課されます。2026年の導入当初、輸入企業は輸入品の内包排出量のごく一部(の対価)を負担するのみとなります。一方で、排出量取引制度の排出枠の無償割当を段階的に廃止するのと連動し、2034年までかけて輸入企業の負担金額を引き上げていきます。

2028年1月1日:CBAMの施行状況に関する欧州委員会報告の最初の発行期限です。報告はカーボン・リーケージや物価、後発開発途上国に対するCBAMの影響について最新情報をまとめるもので、これ以降は年2回発行されます。

2034年以降:輸入企業は製品の内包排出量に対応する価格の100%を支払わなければなりません。

CBAM対応で企業がすべきこと

企業は以下の手順でCBAMに備えることができます。

  • 影響の査定:自社製品のうち、CBAMの対象品目に含まれ、EUに輸出されるものを調査・確認します。そして、事業に及びうる影響の査定を開始します。
  • CBAM遵守のためのガバナンス体制づくり:適切なステークホルダーを責任者に任命し、報告義務や法的義務を果たせるよう適切な権限を与えます。
  • 内包排出量に関するデータの収集:サプライヤーなど外部からの情報収集やデータの処理、規制関連の動向把握といった課題について、組織内の役割と責任を明確化します。業務を担当する社員に炭素会計の基本原則を理解させることも必要です。また、排出量データの管理を手作業で行うか、ソフトウェアを利用するかの判断も必要です。
  • EU市場での競争力向上戦略の検討:CBAMの下では、企業は販売する製品の炭素強度が低いほど支払う税額が低く抑えられます。企業は、CBAMから課される炭素税額を加味しながら、ROIがプラスとなる脱炭素施策の機会を模索することが大切です。

炭素会計ソフトウェアで的確なCBAM遵守を

CBAMの施行はEUにとって大きな前進となります。自らの脱炭素目標をより効果的に達成できるだけでなく、世界の企業に対し、自社製品の内包排出量の算定と報告を始めるよう強く促すことができるからです。EUは気候変動対策を前進させる重要な手段として炭素情報開示に力を入れており、CBAMはこの取り組みを強固にするものです。

対象品目をEUに輸入しようとする企業にとって、まずCBAMの仕組みを理解することは死活問題となります。CBAMの遵守は、自社事業にとって高いハードルになると感じる企業は少なくないでしょう。しかし、そのような未来の不透明さを解消するのに大きく役立つのが、パーセフォニの炭素会計プラットフォームのようなソフトウェアです。製品に付随するGHG排出量の算定・報告を、信頼できる正確な方法で簡単に行うことができます。

世界の炭素情報開示の義務付け状況については、以下で詳細をご説明しています。「Carbon Disclosure Mandates are Coming(炭素情報開示の義務化に備える)」

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