2025/3/18 にSOCOTEC x CDP x Persefoni共催イベントを行いました。今記事はそのアフターレポートとして、どういったことがイベント内で議論されたかをご覧いただけます。
タイムテーブル
- コーポレート・バンキング・プログラムについて (講演)
- CDP Head of Banks and Sustainable Finance Program, Capital Markets / James Chamberlayne 様
- CDP Worldwide-Japan ジャパン・マーケットリード / 松川 恵美 様
- PCAF基準に基づいた精緻な炭素会計 (講演)
- Persefoni Japan カントリーマネージャー / 坂本 晃一
- 金融セクターにおける開示ポイントと第三者保証の重要性 (講演)
- SOCOTEC Certification Japan 執行役員 / 倉内 瑞樹 様
- パネルディスカッション(テーマ)本質的な情報開示
- CDP Worldwide-Japan ジャパン・マーケットリード / 松川 恵美 様
- Persefoni Japan 気候変動スペシャリスト / 高野 淳
- SOCOTEC Certification Japan 執行役員 / 倉内 瑞樹
- (ファシリテーター)SOCOTEC Certification Japan, Resarch & Assesment Department ゼネラルマネージャー / 長田 淳子
コーポレート・バンキング・プログラムの進化と展望 ー CDP松川氏が語る開示の最前線
- 登壇者
- CDP Worldwide-Japan ジャパン・マーケットリード 松川 恵美 氏
- 講演タイトル
- コーポレート・バンキング・プログラムについて part1
- セッション概要
- 本セッションでは、環境情報開示の国際的なプラットフォームを提供するCDPが、金融機関と企業をつなぐ「コーポレート・バンキング・プログラム」について紹介。CDPの創設背景から最新の質問書動向まで、25年にわたる変遷と今後の展望が語られました。

CDPが築いてきた情報開示の基盤
CDPは、機関投資家や銀行などの要請を受けて企業の環境情報開示を促進することを目的として、2000年に設立されました。2003年に最初の質問書が発行。その後、サプライチェーン全体への開示拡大など、プログラムは多様化を続けてきました。
特近年存在感を増しているスキームがコーポレート・バンキング・プログラム」です。これは銀行が自らの融資先に対して、CDP質問書への回答を要請し、気候変動リスクや機会についての情報開示を促す仕組みで、上場企業に限らず、非上場企業や中小企業まで対象が広げることができる点が特徴です。
開示対象の多様化と質問書の統合
2024年はCDPにとって大きな変革の年となりました。これまで気候変動、ウォーター、フォレストの3分野に分かれていた質問書が統合され、より包括的な「完全質問書」として再設計されました。企業は気候のみならず、自然資本全体に配慮した取り組みを促される構成となっています。
加えて、特に中小企業(SMEs)向け質問書が導入されたことで、これまで対応が難しかった企業にも配慮。質問数は通常の10分の1程度に抑えられつつも、比較可能性は保たれた設計になっており、金融機関からの要請に応えやすい体制が整いました。
スコアの活用と今後の開示スケジュール
CDPでは、提出された質問書の内容に基づいてスコアを発行しており、SME向けであっても評価を受けることが可能です。自社の現在地を把握し、次のステップを考えるうえでの指標として活用が期待されます。
2025年の開示スケジュールもすでに発表されており、6月中旬から開示がスタート。パブリックスコアは年内に公開予定とのこと。質問内容自体には大きな変更はないものの、タイミングなどについては最新情報のチェックが重要です。
まとめ
金融機関が気候リスクを理解し、管理していくうえで、コーポレート・バンキング・プログラムはますます重要な役割を果たしています。今後は非上場企業や中小企業の開示も進み、より網羅的で透明性の高いファイナンスが実現されていくことが期待されます。
「ファイナンスの力で移行を加速する」CDPジェームズ・チェンバレン氏が語る銀行の役割と環境リスク管理
- 登壇者
- CDP Head of Banks and Sustainable Finance Program, Capital Markets ジェームズ・チェンバレン 氏
- 講演タイトル
- コーポレート・バンキング・プログラムについて part2
- セッション概要
- 本セッションでは、気候変動によるリスクがますます顕在化するなかで、銀行をはじめとした金融機関が果たすべき役割について、CDPのバンク/サステナブルファイナンスのヘッドであるジェームズ・チェンバレン氏が登壇。環境データの重要性、ファイナンスによる移行支援、そして企業と金融の連携の必要性について語られました。

気候リスクは“すでに”財務リスクになっている
チェンバレン氏は、CDPに関わる前にアフリカ・アジア地域で農業系ビジネスに従事し、気候変動のインパクトを実体験したことが転機になったと語ります。干ばつや洪水、異常気象がビジネスを直撃し、透明性と意思決定に資するデータの必要性を痛感したと言います。
2023年、CDPを通じて企業から報告された気候関連の潜在損失は5.4兆ドルにのぼり、水や森林リスクも合わせるとそのインパクトは極めて大きなものです。これらの数字は、環境リスクがすでに財務リスクであることを強く示唆しています。
データが「行動」を後押しする
金融機関や投資家は、企業の環境パフォーマンスをもとに資本の投下を判断します。信頼性の高いデータを開示することで、企業はより良い融資条件やレジリエンス強化の機会を得ることができます。
さらに、顧客・サプライチェーンとの信頼関係構築、そして急速に強化される環境規制への対応にも、環境情報の透明性は不可欠です。企業にとっては「開示すること」自体が、競争力や持続可能性を高める戦略となりつつあるのです。
銀行とCDPの協業 ― 持続可能なサプライチェーンファイナンス
本講演では、特に「サステナブル・サプライチェーン・ファイナンス」に焦点が当てられました。これは、銀行がバイヤー企業と連携し、環境情報の開示レベルに応じてサプライヤーに優遇金利や資金アクセスを提供する仕組みです。データの開示が資金調達条件に影響を与える、非常に実践的なモデルといえます。
CDPはこのような取り組みを通じて、銀行とともに企業の移行支援を進めています。グリーンボンドやKPI連動型ファイナンスなどのソリューションも支援の一環として紹介されました。
企業も金融も「変革の主体」となるべき時代へ
CDPの最新レポートでは、真にトランジションを主導できている企業はわずか0.8%であるという厳しい現実が示されています。これは、情報開示だけでなく、ビジネスモデルの根本的な見直しが求められていることを意味します。
金融機関には、信頼性のある環境データをもとに、企業とともに持続可能な移行を進める責任があります。
まとめ
気候リスクはもはや未来の話ではなく、現在の財務リスクであり、企業経営とファイナンスの中心課題です。チェンバレン氏は「今こそ、データで世界を変える時」と語り、CDPの提供する開示プラットフォームがその変革の原動力であると強調しました。
持続可能な経済への移行はすでに始まっており、その未来を形づくる主役は、行動を起こす企業と金融機関にほかなりません。
精緻な炭素会計で金融と企業をつなぐ ― Persefoni坂本氏が語るPCAF基準と最新技術
- 登壇者
- Persefoni Japan カントリーマネージャー 坂本 晃一 氏
- 講演タイトル
- PCAF基準に基づいた精緻な炭素会計
- セッション概要
- 本セッションでは、PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)基準に基づいた精緻な炭素会計の実践と、それを支えるテクノロジーについて、Persefoni Japanの坂本氏が講演。金融機関を中心に、中小企業や非上場企業への取り組みの広がり、そしてグローバル規制対応の現状も含めて、具体的なソリューションが紹介されました。

PCAF基準とは?― 金融機関の炭素会計を支える国際基準
PCAFは、金融機関が投融資先の排出量(ファイナンス・エミッション)を可視化・算定するための国際基準です。2024年からCDPの質問書にも組み込まれ、今後、金融業界の標準としてその重要性はさらに高まっています。Persefoniは、PCAF公認ベンダーとして日本で唯一認定を受けており、厳格な基準に準拠した炭素会計ツールを提供しています。
Persefoniの強み:4つの主要機能
- PCAF準拠の精緻な排出量算定機能
ファイナンス・エミッションを、スコープ1〜3に分離して正確に算定。自動で産業分類と紐付けできる機能や、EXIOBASEなど国際的な排出係数も搭載されています。 - 各種レポーティング基準に対応
CSRD、ISSB、CDPなど、国際・地域の開示規制に合わせて柔軟にレポート生成が可能。規制対応の手間を軽減します。 - SME対応の無償ツール「Persefoni Pro」
日本企業の99%を占める中小企業に向け、スコープ1~3を簡易に算定できる無償ツールを提供。金融機関がポートフォリオ全体の排出データを集約しやすくなります。 - グローバル規制への対応と専門家ネットワーク
ヨーロッパ、アメリカ、アジアなどの各国規制に対応可能。元環境省事務次官の中井徳太郎氏やOpenAI Japan代表 長崎忠雄氏など、多様な専門家との連携体制も強化されています。
第三者保証を見据えた透明性の高い設計
算定の精度と信頼性を高めるうえで、第三者保証の対応は欠かせません。Persefoniのツールは、Socotecなどの保証機関による監査を受けやすいフォーマットでデータを出力可能。測定から保証までをスムーズにつなげる設計が評価されています。
サプライチェーン全体への広がり ― SMEとの協働とエンゲージメント
中小企業やサプライヤーへのアプローチは、Scope 3(特にカテゴリ1)の排出削減に不可欠です。Persefoniでは、以下のような支援パッケージを用意:
- 無償版ツール配布によるデータ収集の自動化
- 中小企業向けの勉強会パック
- 伴走型のカスタマーサクセス支援
- 再エネ事業者との連携によるScope 3削減支援
こうした取り組みにより、「測定できない」「方法がわからない」といった中小企業のハードルを下げ、持続的なエンゲージメントが可能になります。
まとめ
炭素会計の信頼性と網羅性は、今や金融機関にとって事業運営上の必須要件となりつつあります。Persefoniは、PCAF基準をベースにした精緻な算定ツールと、中小企業・サプライチェーンとの連携支援により、脱炭素時代のパートナーとしてその存在感を強めています。
次回の脱炭素セミナーは4月末に予定されており、Scope 3エンゲージメント、再エネ、第三者保証、といった複合テーマを扱うとのこと。今後の動向にも注目です。
開示の信頼性を高める第三者保証の力 ― SOCOTEC倉内氏が語る金融セクターの責務と展望
- 登壇者
- SOCOTEC Certification Japan 執行役員 倉内 瑞樹 氏
- 講演タイトル
- 金融セクターにおける開示ポイントと第三者保証の重要性
- セッション概要
- ESG情報開示が進む中、企業の情報発信に「信頼性」を付与する第三者保証の重要性が高まっています。本セッションでは、フランス発の第三者機関SOCOTECの執行役員を務める倉内氏が、GHG算定における第三者保証の基本と実務、そしてPCAF基準に基づくファイナンス・エミッションへの対応について、具体例を交えて紹介しました。

なぜ第三者保証が必要なのか? ― 信頼性の担保が情報価値を決める
GHG報告などの環境情報は、もはや企業の自己申告だけでは信頼性が担保されません。投資判断や信用評価に直結するデータだからこそ、客観的な証拠に基づいた「第三者の目」が不可欠です。
倉内氏は、第三者保証とは「ステークホルダーに対し、報告情報の信頼性を保証するプロセス」であり、単なる監査ではなく、報告者と保証者の二重責任のもとに成り立つ構造であると強調しました。
第三者保証が実現する3つの価値
- 透明性と説明責任の強化
「誰がどう測ったか」が明確になり、報告情報の検証可能性が高まります。 - 誤りや見落としの是正
保証の現場では、排出係数の誤用や過去のスプレッドシートミス、スコープ2の証書期限切れなどが実際に発見されており、ミス防止の最後の砦として機能しています。 - レーティングや外部評価の向上
CDPやS&P、FTSEなどのスコアにおいて、第三者保証の有無は重要な加点要素とされており、企業評価にも直結します。
PCAF基準に基づくファイナンス・エミッションの保証とは
ファイナンス・エミッションの開示が求められる金融機関では、PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)基準への準拠が必要不可欠となっています。
倉内氏は、PCAF基準に含まれる「しなければならない(Shall)」項目と「すべき(should)」項目等を明確に区別する必要性を指摘。特に以下のような対応が求められると説明しました:
- ポートフォリオの開示除外理由の明確化
- データ品質の可視化と継続的改善
- 使用する係数や残高データの出典・発行日などの開示
- スコープ1, 2, 3のすべてを網羅的にカバー
これらの点についても、第三者保証の枠組みに則って妥当性を確認することが重要であると述べました。
ツール導入時も「任せきり」はNG ― 組織内の管理体制構築がカギ
Persefoniのようなシステムを用いた算定も増えていますが、倉内氏は「ツールを使っているから大丈夫」という思考停止に陥ることには警鐘を鳴らしました。
重要なのは、システムへの入力データや係数がどのように管理されているか、役割分担は明確か、という「人とプロセス」の部分。第三者保証は、こうした内部統制の在り方にも光を当てる機会になります。
まとめ:信頼ある開示がレジリエントな金融を支える
倉内氏は、第三者保証のメリットを次のようにまとめました:
- 外部からの評価・信頼性向上
- 組織内の気候戦略・目標管理の精度向上
- サプライチェーン全体での信頼構築と連鎖的なデータ品質向上
- 誤りの未然防止と内部体制の改善
情報開示が義務化される時代において、「測る」「開示する」だけでなく、「どう信頼されるか」が企業価値に直結します。信頼される情報開示の第一歩として、第三者保証の活用がますます重要になってきています。
【パネルディスカッション】本質的な情報開示とは ― データからアクションへつなげる開示のあり方を探る
- 登壇者
- CDP Worldwide-Japan ジャパン・マーケットリード 松川 恵美 氏
- Persefoni Japan 気候変動スペシャリスト 高野 惇 氏
- SOCOTEC Certification Japan 執行役員 倉内 瑞樹 氏
- (ファシリテーター)SOCOTEC Certification Japan ゼネラルマネージャー 長田 淳子 氏
- セッション概要
- セミナーの締めくくりとして実施された本パネルディスカッションでは、登壇者3名が「本質的な情報開示」をテーマに、それぞれの立場から意見を交わしました。単なる報告やスコア取得を目的とした開示ではなく、脱炭素社会に向けた実効性ある「アクション」へつなげるための開示とは何か。そのために求められる基準整合性、第三者保証、エンゲージメントのあり方など、多面的な視点で議論が展開されました。

CDP松川氏:「開示は目的ではなく、行動の起点である」
松川氏はまず、コーポレート・バンキング・プログラムの意義として、企業と金融機関の間で共通の情報基盤を持ち、双方向のエンゲージメントを進めることの重要性を強調。スコープ1〜3の算定を基礎とし、ベリフィケーションを経て、最終的に「移行計画」へとつなげる一連のプロセスの流れが本質的な情報開示の鍵になると語りました。
「データを揃えることがゴールではなく、それをもとに何をどう変えるかを考え、実行することが真の目的」であり、CDPの質問書もそのためのガイドとして活用してほしいと呼びかけました。
Persefoni高野氏:「情報の“質”と“使い方”が意思決定を左右する」
Persefoniの高野氏は、ツールによる算定支援の観点から、比較可能で統一されたデータの整備がアクションにつながる前提であると説明。とりわけスコープ3の情報収集においては、ルールの理解や前提整理が最大のハードルであるとし、ツールによって効率化しながらも、組織としての納得感を持って算定に取り組む重要性を語りました。
また、SSBJ基準の整備により、日本独自のルールからグローバル準拠へのシフトが明確になった点にも触れ、「ガラパゴス化を防ぎ、国際投資家の期待に応える開示へと進む好機である」と評価しました。
SOCOTEC倉内氏:「表面的な開示ではなく、行動の裏付けを伝える」
倉内氏は、「開示はスナップショットであり、企業の実質的な取り組みの反映であるべき」と指摘。過去に執筆・監修してきたCDPの気候変動年次レポートを例に、移行計画の策定・進捗状況と実際の削減パフォーマンスの相関を強調しました。
第三者保証機関として、CDPスコアの取得を目的とした「表面的な開示支援」ではなく、実態を可視化し、継続的改善を支援する視点で関わっていることを改めて説明。「スコアに一喜一憂するのではなく、自社の変革をどう伝えるか」が、本質的な情報開示の要であると語りました。
最後のメッセージ:データが導く行動が、企業の未来をつくる
ディスカッションの締めくくりでは、各登壇者が次のようなメッセージを残しました。
- 松川氏:「外部不経済を内部化する視点を持ち、将来コストを見据えた先行投資とイノベーションを促すために、情報開示を戦略的に活用してほしい」
- 高野氏:「データがなければ正しい判断ができない。炭素会計の“民主化”を進め、誰もが行動を起こせる仕組みを支えたい」
- 倉内氏:「“今の姿”を正しく伝える開示を。スコアの先にある、脱炭素社会への実質的な貢献をともに目指していきたい」
まとめ
本セッションを通じて、情報開示は「終点」ではなく「起点」であることが再確認されました。信頼性のあるデータ整備と第三者保証、そしてそれを基にしたエンゲージメントと移行計画の実行こそが、企業のサステナビリティ経営を加速させます。
本質的な情報開示とは、数字を並べることではなく、「なぜそれが必要なのか」「どう活かすのか」を社会に問いかける行為なのかもしれません。
--------
本資料の作成者および内容に関する担当は以下の通りです。
作成・文責:Persefoni Japan (担当:多田)