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炭素会計 基礎講座

上流と下流の排出量

Updated: 
December 6, 2024
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Overview

上流での活動

上流での活動からの排出には、組織のサプライヤーおよび従業員の活動によって生じるすべての排出が該当します。 商品・サービスを生産し、顧客に提供する際に発生する排出のほか、日常業務で生じる排出も含まれます。

以下のスコープ3カテゴリは上流での活動とみなされます。

1. 購入した物品・ サービス

カテゴリ1は、報告組織が購入または取得した物品・サービスによる排出のうち、カテゴリ2〜8に該当しないものすべてを扱います。 多くの物品・サービスが当てはまるため、用途に応じてさらに2種類に分類されます。一つは「直接購入」で、生産に関連して購入するもの(部品など)が該当します。もう一つの「間接購入」には、生産と無関係に購入するもの(人事ソフトウェアなど)が該当します。

2. 資本財

カテゴリ2は、報告組織が購入または取得した資本財からの排出を扱います。 GHGプロトコルにおける資本財は、以下の用途で長期間使用する最終製品と定義されています。

  • サービスを提供する
  • 商品を配送、販売、保管する
  • 製品を生産する

資産の分類の仕方は組織ごとに異なりうるため、個々の品目をどのカテゴリに分類するかは報告組織に委ねられます。 ただし、二重計上は避ける必要があります。

カテゴリ1と同様、資本財についても、「クレードル・トゥ・ゲート(原材料採取から製造・出荷まで)」の排出量を取得年に一括で計上することが求められます。 財務会計では通常、資本財を複数年にわたって減価償却するため、そういう意味では、温室効果ガス排出量とは計上方法が異なる可能性があります。

3. 燃料・エネルギー関連活動

カテゴリ3は、燃料・エネルギー関連の活動による排出のうち、スコープ1、2に含まれないものを扱います。 このカテゴリには、以下の活動による排出が含まれます。

  • 購入した燃料から生じる上流の排出量:報告企業が消費する燃料の輸送・生成・採取
  • 購入したエネルギーから生じる上流の排出量:報告企業が消費する電気、蒸気、温熱、冷熱の生産過程で消費される燃料の輸送・生成・採取
  • T&D(送電・配電)において失われる電力:送電・配電網で消費(損失)する電気、蒸気、温熱、冷熱の生産(上流での活動や化石燃料燃焼)
  • 売電用に仕入れる電力の生産:報告組織が購入し、最終消費者に販売するエネルギーの生産(上流での活動や化石燃料燃焼)。電力会社やエネルギー小売企業が報告する。

4. 輸送、配送(上流)(カテゴリ4)

カテゴリ4は、第三者による輸送・流通サービスから発生する排出と、製品の輸送・流通において発生する排出を扱います。 倉庫間で物資を輸送する際に生じる排出や、そうした物資の輸送を請け負う物流会社による排出も含まれます。 また、購入・販売した製品の配送については、報告企業が配送費を負担している場合はすべて対象となります。 商品の輸送・配送だけでなく、商品の保管といった流通サービスもこのカテゴリに含まれることに注意してください。

5. 事業活動で発生する廃棄物

カテゴリ5は、企業が支配または所有する事業活動から出る廃棄物を、第三者が処理・処分する際に生じる排出です。 処理・処分時点だけでなく、将来的な排出も対象となります。また、ここでの"廃棄物"には、廃水と固形ごみの両方が当てはまります。 廃棄物を輸送する際の排出も、任意でカテゴリ5に含めることができます。

6. 出張

カテゴリ6は、第三者が所有または運行する交通手段を使い、従業員が事業関連の目的で移動することによる排出を扱います。 ホテル宿泊から生じる排出も、任意で含めることができます。

一方、以下の排出はカテゴリ6に含まれません。

  • 報告組織が所有または支配する車両での移動(スコープ1で扱うため)
  • 従業員の通勤(スコープ3のカテゴリ7で扱うため)
  • 報告組織が賃借しているリース車両での移動(スコープ3のカテゴリ8で扱うため)

7. 従業員の通勤

カテゴリ7は、従業員が通勤のため移動することで生じる排出を扱います。 リモートワークによって生じる排出も含めることができます。

8. リース資産(スコープ3)

カテゴリ8は、報告組織が賃借しているリース資産のうち、設定済みの組織境界に含まれない資産の稼働によって生じる排出です。

リース資産は、企業のスコープ1またはスコープ2のインベントリに含まれる場合もあります。どこに含まれるかは、リースの種類や、組織境界を設定する際に用いた連結基準によって決まります。

このカテゴリに該当する最も典型的なケースは、企業の組織境界に含まれない施設を数箇所だけ賃借しているような場合です。

次に、GHGプロトコルでスコープ3の下流と定義されているカテゴリを見てみましょう。

下流での活動

下流での活動からの排出は、商品・サービスが組織の施設を離れた後に発生する排出です。 商品・サービスが流通し、販売され、 最終消費者に持ち帰られる際に発生するすべての排出が含まれます。ただし、それらの活動の代金を報告企業が負担していない場合に限ります。

以下のスコープ3カテゴリは下流での活動とみなされます。

9. 下流の輸送と流通

カテゴリ9は、販売した製品の輸送・流通サービスから発生する排出です。ただし、顧客や最終消費者がサービスの代金を支払った場合に限ります。 商品の輸送・配送だけでなく、商品の保管といった流通サービスもこのカテゴリに含まれることに注意してください。

10. 販売した中間製品の加工

カテゴリ10は、中間製品(衣服用の生地、コンピューター用の集積回路など)を生産する企業にのみ関連します。最終生産者が、販売用の最終製品に中間製品を組み込む際に発生する排出が対象となります。

11. 販売した製品の使用

カテゴリ11は、報告組織が販売した物品・サービスの使用による排出を扱います。 報告年度内に販売したすべての対象製品・サービスの、想定寿命期間にわたる全排出が対象となります。

12. 販売した製品の廃棄

カテゴリ12は、販売した製品がライフサイクルを終え、廃棄・処理される際に発生する排出を扱います。 報告年度中に販売したすべての製品のライフサイクル終了時の排出が対象となります。製品の想定寿命は関係ありません。

報告組織が販売した中間製品(例:カーエアコン)については、その製品を使って生産された最終製品(例:自動車全体)ではなく、あくまで中間製品に伴う排出のみを計上する必要があります。

このカテゴリの排出量算出では、製品の廃棄法(埋め立てや焼却など)について必然的に仮定を含みます。消費者が製品をどう処分するのか、具体的に把握することが難しいためです。 報告には、算出に用いた仮定や手法の説明を盛り込む必要があります。

13. 下流のリース資産

カテゴリ13では、報告組織が所有し、他の組織にリースした資産の稼働による排出のうち、スコープ1、2に含まれないものを扱います。

例えば、貴社がオフィススペースを所有または賃借し、その一部を他社にサブリースしている場合、サブリースしたスペースはこのカテゴリの対象となります。

14. フランチャイズ

カテゴリ14は、フランチャイズ活動から生じる排出を扱います。 ★コメント(3)★このカテゴリはフランチャイザーに適用されます。フランチャイザーが、フランチャイジー側のスコープ1と2の排出をこのカテゴリで報告します。フランチャイジー側のスコープ3排出についても、他のスコープ3カテゴリに含めておらず、かつ重要であると予想される場合には、このカテゴリに含めます。

フランチャイジーは、自身の支配下にある業務からの排出量を、自身のスコープ1、2に含めていない場合には、このカテゴリで報告する必要があります。

15. 投資(スコープ3)

カテゴリ15では、いわゆる「投融資先の排出量」を扱います。これは、報告組織の投融資活動から生じる排出のことです。 主に金融機関向けのカテゴリですが、多額の投融資を行うすべての組織に関係します。

投資先から生じる排出量を出資比率に基づき配分する必要があります。 投資ポートフォリオは時間とともに変化する可能性があるため、一時点の資産配分か、報告年度の平均的な資産配分を算定に使うことになります。

PCAF(金融に関わる炭素会計のパートナーシップ)は、カテゴリ15を基盤とし、かつそれを補足する基準を開発しました。 この基準は、投融資先の排出量を開示したい金融機関のための追加的ガイダンスとなっています。

ここまで読み、こんな疑問を抱いた方もいるかもしれません――「本当にスコープ3を算定する必要があるのだろうか?」

スコープ3排出量の報告は、一般的には任意とされています。しかし、真のカーボンニュートラルを目指すにはスコープ3の報告が欠かせません。 スコープ3を算定せずに、有意義な気候変動戦略を立てることはできません。 ほとんどの企業では、総排出量の大部分をスコープ3が占めています。つまり、スコープ3を削減すれば、自社の排出量削減に最大の効果が現れるはずです。しかも、同時に他組織の排出量も削減されることになるのです。

3つのスコープすべてを算定する意味

スコープ1、2、3の排出量の合計が、組織のGHG総排出量ということになります。

組織はスコープ1、2、3の排出量を算定・把握することで、さまざまなメリットを得られます。例えば、1)透明性の向上、2)ステークホルダーとの関係強化、3)新たな規制への先行対応、4)自社事業とバリューチェーン全体の気候リスク対応における改善点の特定、などによるメリットがあります。