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サプライチェーン 排出量とは?【わかりやすく解説】

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Article Overview

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、グローバルで脱炭素の流れが加速しています。昨今では企業が開示する排出量の範囲も拡大しており、自社内だけではなくサプライチェーン全体における排出量削減が求められています。

それはどのような内容で、どのように実現していけばよいのでしょうか。

この記事では、サプライチェーン排出量の考え方、導入するメリット、取り組んでいる企業の事例について紹介します。

サプライチェーン排出量とは

サプライチェーン排出量とは、自社の製品やサービスに関わる全ての工程で発生した温室効果ガスの総量です。

サプライチェーンとは、ある製品やサービスが作られて廃棄するまでの流れを指す言葉です。例えば、工業製品の場合、製品の原材料・調達・生産・物流・販売・使用・廃棄までのネットワークをサプライチェーンと呼びます。

サプライチェーンの工程ごとに発生した自社と他社の温室効果ガスを合計した排出量が、サプライチェーン排出量です。

サプライチェーン排出量の内訳

サプライチェーン排出量は、スコープという3つの分類方法に則り、算定されます。

  • スコープ1 企業が直接排出した温室効果ガス。製品やサービスの製造の過程で設備の稼働に使用した燃料から発生した二酸化炭素、工場内の化学反応により発生した温室効果ガスが該当します。

  • スコープ2 他社から供給されたエネルギーなどの使用に伴い間接的に排出された温室効果ガス。電力会社から購入している電気の使用により発生した温室効果ガスが該当します。

  • スコープ3 スコープ1・スコープ2以外のサプライチェーンにおいて間接的に発生した温室効果ガス。範囲が広いため、製品の使用、製品の配送、従業員の出張や通勤など15のカテゴリに分類されています。

これらの排出量を合計した排出量がサプライチェーン排出量です。これまでもスコープ1とスコープ2に対する報告制度はありました。現在は、さらなる温室効果ガス削減のためにスコープ3の排出量の算定が社会から求められつつあります。

GHPプロトコルの紹介(概要)

GHG(Greenhouse Gas)プロトコルとは、温室効果ガスの排出量を算定するための国際的な基準です。温室効果ガスの排出量の算定と企業や政府が温室効果ガスの排出量を算定し、報告するためのフレームワークが記載されています。「スコープ」による分類方法もGHGプロトコルが定めたフレームワークの一つです。

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サプライチェーン排出量の開示義務化は

企業におけるサプライチェーン排出量の開示義務化が世界中で進められています。その理由は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)により「スコープ3」の開示がサステナビリティ開示基準に盛り込まれたためです。

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、ESGなどの非財務情報の国際基準を策定する機関です。日本もISSBの基準に準じて上場企業の開示するサスティナビリティ情報の基準を定めています。サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の元、開示基準の開発が進めており、それと同時に「スコープ3」の開示を義務化する方向で法制度の整備も進行中です。

2023年6月26日にスコープ3の開示義務化

日本では、2023年6月26日に公表されたISSBの基準ではスコープ3の排出量開示の義務化が決まりました。同基準は現在までに日本を含む世界のGDPの50%を占める法域で規制に向けた検討が進められています。今後、世界中の企業がサプライチェーン全般にわたる排出量を算定し、公表することが求められます。事業会社など関連会社の多い企業はグループ全体における温室効果ガスの算定が必要です。

27年3月期の有価証券報告書から開示義務化の見通し

日本でのISSB基準の導入に向けた検討は現在進行形で議論がされており、サプライチェーン排出量の開示義務化は2027年の3月より段階的に開始する予定です。2024年8月現在の見込みスケジュールは以下の通りです。

時期・内容

2025年3月

国内基準の最終版を公表

2027年3月

東証プライム上場企業、時価総額3兆円以上の企業が開示義務化

2028年3月

東証プライム上場企業、時価総額1兆円以上の企業が開示義務化

規模の大きい企業から開示の義務化が始まります。それまでにサプライチェーン全体での排出量データを収集し、開示体制を整える必要があるといえるでしょう。

いま企業に求められる対応

企業は、サプライチェーン全体での排出量を把握し、適切な削減目標を設定する必要があります。そのためには、ESGに関わる経営戦略を策定した上で、それを実行するための組織体制を整備することが求められます。専門スキルを持った人材の確保、ガバナンス体制の構築、炭素会計を実施するためのソフトウェアの導入などが必要です。

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サプライチェーン排出量の目的・メリット

サプライチェーン排出量の削減に取り組むことは、企業のカーボンニュートラル実現に寄与し、競争力強化やブランド価値向上にもつながります。ここでは、サプライチェーン排出量の削減に取り組む4つのメリットを具体的に解説します。

優先削減項目/削減効果の見える化

まず、サプライチェーン排出量を算定することで、温室効果ガス削減の優先項目を決められます。温室効果ガスを削減するには、排出量の場所や理由を特定し、影響の大きい箇所から対策を取る必要があります。サプライチェーンの排出量を算定する過程で、排出量の大きいカテゴリの特定が可能です。また、自社のサプライチェーン排出量を把握し、記録することで、削減対策の効果を確認することも可能です。環境経営の指標として活用できるというメリットがあります。

ESG投資の増加

国際的なESG投資は増加傾向にあり、今後も加速していくと予想されています。サプライチェーン排出量を開示し、カーボンニュートラル実現に向けて積極的な施策を展開している企業は、投資家からの高い評価を獲得されます。投資を受ける機会が増え、企業価値の向上に繋がるでしょう。

営業活動 / 企業間連携の強化

サプライチェーン排出量の算定の過程で、ステークホルダーとの関係性を深められる可能性があります。サプライチェーン排出量の算定には、自社以外のステークホルダーの排出量を把握しなければいけません。顧客に対する自社からの情報の提供やサプライヤーに対する情報提供の依頼も発生します。温室効果ガスの削減に繋がる商品やサービスを提案したり、新たな商品やサービスを開発するプロジェクトに取り組んだりすることで、新たな営業活動へ発展させられる可能性があります。

CSRによる企業PR

サプライチェーン排出量削減の取り組みは、企業の社会的責任(CSR)活動の一環として広くアピールすることができます。そのため、企業の信頼性を高めるための手段にもなります。

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サプライチェーン排出量の算定方法

サプライチェーン排出量の具体的な算定は、GHGプロトコルに記載された国際的な基準に則って進める必要があります。その具体的な方法は環境省のガイドラインに記載されている以下の4つのステップです。

算定⽬的の設定

サプライチェーン排出量を算定する際には、まず明確な目的を設定する必要があります。算定の目的には、全体像把握、ステークホルダーへの情報開示、削減の評価などが挙げられます。

算定対象範囲の設定

次に、排出量の算定対象となる範囲を設定します。原則的には以下の範囲が対象となります。

  • 企業:自社と国内外のグループ企業
  • 期間:1年間
  • 算出対象:自社とグループ企業におけるスコープ1、スコープ2の温室効果ガスの排出量。スコープ3における温室効果ガスの排出量。

カテゴリの抽出

サプライチェーン排出量は、スコープ1・スコープ2・スコープ3の排出量の合計値です。その中でも、排出量の算定が複雑なのがスコープ3です。スコープ1とスコープ2の算定は比較的シンプルです。スコープ1は、自社の燃料の消費量を把握できれば、温室効果ガスを算定できます。スコープ2も自社の電力の消費量から温室効果ガスの算定が可能です。

しかし、スコープ3の排出量は、サプライチェーン全体の排出量を確認しなければいけません。そのためには、自社の事業活動に関連する対象となる温室効果ガスが排出されるカテゴリーを調査し、その排出源ごとにデータを収集する必要があります。それらのカテゴリーは国際的な基準で15種類に分類されています。

活動量データの収集

情報を収集する対象が決定したら、実際にデータを収集し、排出量の算定を実施します。これらのデータは開示情報に繋がるため、決算情報などと同様に正確かつ専門的に処理しなければいけません。しかし、国際的な標準であるGHGプロトコルに準拠しながら、正確な炭素会計を進め、包括的な分析と削減目標の立案を一貫して実施するのは、容易ではありません。

正確性を担保しながら効率的に炭素会計を進めるためには、専門的なソフトウェアが不可欠です。Persefoniでは、GHGプロトコル準拠した炭素会計のソフトウェアを提供しています。直感的なUIを採用し、LLMを活用したチャット形式のAIシステムを搭載しているため、これから炭素会計の専門知識を学ぶ方でもスムーズに炭素会計を進めることが可能です。

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サプライチェーン排出量に取り組む企業と算定事例

サプライチェーンの排出量の算定に取組企業は増加傾向にあります。ここでは、環境省が公開した企業の事例を元にサプライチェーン排出量の取組事例を紹介します。

環境省公開事例① カルビー株式会社

カルビーは、2030年までに温室効果ガスの総排出量30%の削減を目標に掲げています。その目標達成に向けて、環境省が公開しているサプライチェーン排出量算定のロードマップに則り、プロジェクトを進めました。主管部署は、生産管理部とサスティナビリティ推進部です。スコープ1・2・3の分類に則り、温室効果ガスの排出量を算定した結果、「スコープ3 カテゴリ1 購入した製品・サービス」の割合が53%を占めることが判明しました。カルビーの手がけるメイン商品にはばれいしょが原料として使われており、今後は生産者と共同で温室効果ガスの削減へ取り組むことを計画しています。

参照:環境省・取組み事例 株式会社カルビー 2023年度

環境省公開事例② スズキ

スズキは、製造した自動車やバイクの温室効果ガス排出量が大きいため、2013年度よりサプライチェーン排出量の算定に取り組んでいます。2022年度のサプライチェーン排出量は10,370万トン。そのうち79.7%が「スコープ3 カテゴリ11 販売した製品の使用」に該当すると判明しました。自動車とバイクから排出される排気ガスの量になります。従来通り、バリューチェーン全体の排出量を削減するために、自動車やバイクの燃費向上に取り組むと目標を打ち出しています。

参照:環境省・取組み事例 スズキ株式会社 2023年度

環境省公開事例③ 株式会社NTTグループ

株式会社NTTグループは、温室効果ガス削減目標として、2030年度までにスコープ1・スコープ2で68%、スコープ3で42%の削減を目標に掲げています。その目標達成のために、サプライチェーン排出量を算定した結果、「スコープ3 カテゴリ1 購入した製品・サービス」が39.0%、「スコープ3 カテゴリ11 販売した製品の使用」が36.0%を占めるという結果が判明しました。

参照:環境省・取組み事例 株式会社NTTグループ 2023年度

参考:業種別取組事例一覧 | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省

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パーセフォニ利用企業の算定事例

パーセフォニの炭素会計システムはグローバルの多くの企業に採用されています。その導入事例について紹介します。

パーセフォニ利用企業① At Home

At homeはアメリカで250店舗以上を展開するインテリアや家具を販売している小売チェーン店です。2022年度にPersefoniの炭素会計ツールを導入し、調達や製品の使用などサプライチェーン排出量を算定しました。その結果は、2023年のESGレポートで公表されております。「スコープ3  カテゴリ1 購入した製品・サービス」の占める割合が36%、「スコープ3  カテゴリ12 販売した製品の廃棄」が29%を占める結果となりました。今後はPersefoniとの連携を強化し、サプライチェーン全体での環境への影響を低減することを目指しています。

パーセフォニ利用企業② Hoover CS

Hoover CSはアメリカで工業用の化学薬品の輸送に使用されるコンテナやドラム缶、タンクなどのレンタルサービスやそれらの追跡システムの提供を手がています。2025年までに電力の50%を再生可能エネルギーから調達することを目標に掲げており、環境経営の強化を進めています。

2021年度にPesefoniの炭素会計ツールを導入し、温室効果ガスの算定を開始しました。2022年度のESGレポートによると、その結果は、スコープ1の占める割合が48.6%、スコープ3の占める割合は30.27%でした。GHGプロトコルに則ったサプライチェーン排出量の算定により、排出量削減に取り組むための優先項目が明らかになりました。

パーセフォニ利用企業③ Oak Hill Advisors

Oak Hill Advisorsはニューヨークに本社を置く投資会社です。ESG投資の重要性を理解し、自社の排出量の算定にも力を入れてきました。2021年・2022年・2023年と3年にわたりPesefoniの炭素会計システムを活用し、排出量の算定を行っています。継続的にPersefoniの炭素会計システムを活用することで経年ごとの排出量削減を可視化し、排出量削減のための施策を打ち出すことに成功しています。

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サプライチェーン排出量の算定は新たな企業価値を生み出す

サプライチェーン排出量の算定と開示は、ESG投資が加速する現代において、企業の新たな価値を生み出します。排出量の算定と開示により、具体的な排出量削減の施策を打つことが可能です。ステークホルダーからの高い信頼を獲得し、企業の価値向上に繋がるでしょう。

さらに、排出量削減の取り組みは、企業のガバナンスやリスク管理の強化にも繋がります。気候変動に対する対策が求められる社会情勢において、国際的な基準や法規制が強化される可能性はゼロはありません。今後の事前にサプライチェーン全体を把握し、対策を取っておくことで規制への対応もスムーズに行えます。

また、日本国内において、サプライチェーン排出量の算定と開示は義務化に向けた動きが始まっています。規模の大きい企業から義務化が始まりますが、その適用範囲は段階的に広まると予測されます。排出量削減のために、排出量の少ない製品やサービスを持っている製品やサービスを持っている企業は市場で存在感を発揮していくことでしょう。ただ、そのためには、排出量算定の仕組を理解し、需要を捉えた上で、新しい技術やシステムの開発に挑まなければいけません。サプライチェーン排出量の算定に取り組むことで、その仕組や市場の動向を具体的に掴むことができます。

しかし、サプライチェーン排出量の算定に取り組むには、専門的な知識が必要です。組織にノウハウは蓄積されていないため、ゼロから組織体制を構築しなければいけません。そして、業務を効率的に進めるための方法として、専門家のコンサルティングやソフトウェアに頼ることは有用です。サプライチェーン排出量の取組が進んでいるアメリカにおいても、炭素会計システムを活用し、温室効果ガス排出量の削減に取り組む企業が増えています。

パーセフォニは、グローバルでクラウドの炭素会計システムを提供しています。GHG開示の規制に精通した専門家のサポート体制も整っているため、サプライチェーン排出量を効率的に算出し、透明性の高い炭素会計を実現したい企業の方は、ぜひサービスのお問い合わせをしてみてください。新たな企業価値を創出するサポートをさせていただきます。

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