当社が定期的に開催している金融機関様向けセミナーも3回目となりました。年の瀬も迫る11月に東京都内の株式会社三井住友銀行本店のセミナールームをお借りして、開催いたしました。
当イベントでは、当社から最新システムの紹介と、気候変動への規制についての最新情報を解説。また当社のパートナー様の専門家の方々に、地域脱炭素をテーマに知見をお話しいただきました。
後半戦では、パネリストとしてご招待した各企業様より講話をしていただきました。
セミナー終了後ネットワーキングの時間も設けられ、意見交換や課題の共有など有意義な議論の場になっておりました。その様子をお届けしていきます。
では、最後までお楽しみください!
イベント概要
日付:2024年11月13日(水)
時間:14:00~18:30
会場:株式会社三井住友銀行様本店
主催:Persefoni Japan合同会社
パネリスト&モデレーター(順不同)
- 株式会社三井住友銀行 執行役員 デジタルソリューション本部長 白石 直樹氏
- MS&ADインターリスク総研株式会社 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ第一グループ 主任コンサルタント 三島らすな氏
- 株式会社バイウィル 代表取締役社長 下村 雄一郎氏
- 八千代エンジニアリング株式会社 事業開発本部 サステナビリティサービス部 課長 吉田 広人氏
- 株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 ソリューショングループ長 佐野 和秀氏
- ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン株式会社 執行役員 倉内 瑞樹氏
- Persefoni Japan合同会社 Country Manager 坂本 晃一
- Persefoni Japan合同会社 Director 真島 啓太
- Persefoni Japan合同会社 Director 遠藤 トレイ
森林経営、カーボンマイナスなど環境価値の創出が加速する
パネリスト第2弾は、株式会社バイウィル 代表取締役社長の下村雄一郎氏に登壇いただき、「地域脱炭素と金融 カーボンクレジットで地域行動変容を起こす」をテーマに講話いただきました。
同社は2013年創業の、環境価値創出支援事業(クレジット創出)、環境価値売買事業(クレジット調達・仲介)、脱炭素コンサルティング事業、ブランドコンサルティング事業を展開する企業です。
2024年11月現在、行政や地方金融機関をはじめ、北海道・東北・中部・関東・近畿・中国・四国・九エリアに存する69のパートナーと提携しています。下村氏は「今、自治体との連携が増えている」と言います。それほど、環境価値創造支援に対してニーズがあるのでしょう。
現在の日本では、再生エネルギー事業に対してはプロジェクトファイナンス(以下、PFとする)がつきますが、再生可能エネルギー以外の環境価値にはPFがついている事例はまだ多くありません。しかし、下村氏は「今後こうしたカーボンクレジット商品などの価値環境商品や事業にもPFがついてくる世界が当たり前になってくるだろう」と指摘します。実際に再生可能エネルギー以外の環境価値にもPFがつくようになってきています。
例えばDACCS (CO2を直接回収・貯留)、BECCS(回収・貯留付きバイオマス発電)、CCUS(CO2回収・利用・貯留)なども、PFがつく対象として検討されています。このようにCO2に対しての価値が高まっており、将来はこれらのカテゴリが主流になるかもしれないと指摘しました。
参加者に強調した点は、まずは森林経営、カーボンマイナスなど環境価値の創出を加速していくべきだということと、まずはこうした価値があることに気づきを持ってほしいということでした。
特にこれらを実現していくためには中小企業や地域の企業、商工会議所などの連携は必須で、その役割として地域の金融機関の存在は欠かせません。前述の企業や団体が連携を取り合うことで、地域脱炭素の推進と地域経済活性化の両立ができると最後に下村氏は語り、セッションを終えました。
1900社のCDPの回答から見えたこと
続くパネリストの登壇は、八千代エンジニヤリング株式会社 事業開発本部 サステナビリティサービス部課長の吉田広人氏です。同社には「CDP2024の回答状況から⾒えた企業の課題と解決に向けた今後の取り組み」というテーマで講話いただきました。
八千代エンジニヤリング社は従来より官公庁やJICAを取引先とし、ダムや河川、橋梁等にかかる計画・設計・解析といった社会資本整備に関する建設事業が主流でしたが、昨今は民間企業に対しサステナビリティコンサルティングやアドバイザリー業務も実施している企業です。
同社では、上記サステナビリティ業務の一つとして、企業のCDP回答の支援を実施しています。その取り組みを踏まえた上での網羅的な内容や課題、どう取り組むと良いのかを各企業に共有するセッションになりました。
CDPとは、質問書を通して企業のESGリスクを評価・情報開⽰する外部格付機関のことであり、現在八千代エンジニヤリング社は水セキュリティの認定パートナーとして、CDPとの関わりがあります。2020年から国内各社に向けたCDPに関するアドバイザリー業務をはじめ、2023年から認定パートナーとして活動しています。
吉田氏によると、現在日本の1900社ほどがCDPを利用しており、需要は年々増えています。ゆえに多くの知見がストックされている状況だとも言います。
今回はCDPの2024年の特徴について言及。特に、以下の4点がポイントだと述べました。
また、具体的にスコアリング方法の課題にまで踏み込み、前年との変更点や、これから実践者がつまづくであろう部分についてコメントをしました。特にカテゴリ単位での得点率やカテゴリウェイトから「エネルギー」と「⽬標」の取り組みについて事例を紹介。事例があることでより課題の実感ができる場となりました。
吉田氏は最後に総括として、「CDP質問書やスコアリングの変更を踏まえて、スコアの維持・向上には継続的な取り組みレベルの向上や新たな取り組みの実施が必要不可⽋だ」と強調しました。 ただし、これらはあくまで一般的な話。企業によって取り組みの優先順位はさまざまであり、普遍的な話にとどまらず、自社に向けたCDPの回答結果から、課題の棚卸をしていくことが最も重要だと述べてセッションを終えました。
三井住友フィナンシャルグループ担当者が語る サステナブルファイナンスの動向とSMBCグループの取り組み
4人目のパネリストには、株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 ソリューショングループ長の佐野和秀氏をお迎えしました。講演内容はSMBCグループのトランジションファイナンスに関する取組です。
各金融機関においては、融資先のお客様のGHG排出量をどう可視化していくかが悩ましいのではないでしょうか。そしてそのデータを金融機関として次にどう生かしていくのかも課題です。
まずは、さまざまなセクターのファイナンスド・エミッション(略称:FE)の開示・対応状況について話がありました。
「これまでSMBCは石油ガス上流、そして電力発電のセクターのファイナンスド・エミッションの開示に合わせ、トランジションファイナンスの基準を定めるTransition Finance Playbookを策定していました。今年に入り自動車と不動産セクターも追加し、少しずつ対象セクターが拡大しています」と話します。
これらのデータを活用しながら、脱炭素社会の実現に向けて、再エネ等の既に脱炭素の水準(グリーン)にある事業への取組に加えて、GHGを多く排出する産業を中心に省エネ・燃料転換等を含む着実な脱炭素化に向けた移行(トランジション)への取組に対するファイナンスを推進していくことが銀行としては重要となります。
佐野氏は「世界各地で状況の違う国がそれぞれ一歩ずつ前に進んでトランジションしていくことが大事だ」と強調しました。トランジションの進み方は世界各国で異なるからです。
トランジションとはブラウンからグリーンへの経過段階のことです。石炭火力等のブラウンエネルギーから脱炭素エネルギー(グリーン)に転換することは一足飛びにはいきません。
「石炭火力発電やガス火力発電で多量の二酸化炭素を排出してしまっているからといって、今すぐ全てを廃炉にして再生可能エネルギーに切り替えることはできないのです。そこで経過措置として低排出の燃料と混焼したり、日中の再エネ導入を促すための調整電源としてのガス火力を導入するのですが、実態経済の脱炭素に貢献すべくそこに新規融資をした瞬間に、今度は銀行としてのFEが大幅に増えてしまいます」
同行はこの移行のためのアセット・戦略関連のクライテリアを排出度合いにおいてラベル分けをし、明確な指針を打ち出しました。
この狙いは、移行戦略に積極的に取り組んでいる高排出セクターの企業様に対して、より⾧期的な視点で支援できるようにするためです。あくまで本件は、SMBCグループの事例にしか過ぎません。
最後に佐野氏は「皆が同じような考え方で、世界の脱炭素にどうやって貢献できるかをシェアしたい。業界全体で同じ方向を向いていけたら、日本の金融機関はまとまるし、さらに世界の金融機関までもが同じ方向を向いていけたら、顧客は混乱しないのではないか」と述べました。
第三者保証取得のために企業がやるべきこと
パネリスト最後の登壇者は、ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン株式会社 執行役員の倉内瑞樹氏です。
同社からは第三者保証取得の重要性と、透明性を持った炭素会計の重要性について講和いただきました。
ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン社は、フランスにある第三者保証機関の日本法人です。第三者保証取得に向けて鍵を握っている企業ともいえるでしょう。
企業サステナビリティ報告に関する指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下CSRD)に基づき、非上場のEU域内の大規模会社は25年度適用初年度としてサステナビリティ報告及び第三者保証が義務化されます。当然ながら日本でもその重要性が高まっています。
これらの義務化は、環境情報の信頼性、検証可能性を確保するために、誰が算定しても同じ結果が得られるような「報告体制の構築と報告ルール(算定手順)」を設定することが重要とされているからです。検証可能性⇒ 算定手順+ 算定根拠(原データ等)組織が自らのGHG排出量の主張を実証するものとして、第三者保証が設定されはじめました。
まずはテーマ1として「排出量の第三者保証」について解説いただきました。おさらいも兼ねてになりますが、第三者保証取得までのGHG排出量の算定から分析、データ集計後の第三者保証のプロセスがどのようにして為されているかを、フローチャートを追いながらお伝えしました。以下のようなプロセスを経て、その後意見書や保証報告書の発行がされるという過程を参加者と共に理解しました。
第三者保証は、自社の正確性や透明性を客観的に示すだけではなく、保証がされていることで、外部評価や各種規制にも対応していけるメリットがあることを示しました。
セッション後半ではScope3カテゴリ15(ファイナンスドエミッション)の算定ステップを事例にしながら、算定システムを使用している場合とそうでない場合の違いについて解説をしました。
まずはポートフォリオの資産分類が適切であるかどうかという観点で見た時に、算定システムを使用している場合は、システムの仕様において既に設計されているため、システム仕様におけるPCAF準拠の資産分類で集計されていることの確認で信頼性が高い、と指摘。
一方で、算定システムを使用していない場合は、資産分類法の定義の適切性、集計のためのスプレッドシートやエクセルデータ等の正確性が審査のポイントとなることを述べ、より精緻な数値を求め第三者保証を得るためには、属人的な算定方法からの脱却を促すコメントがありました。
また企業の総資産関連データ(分母)にフォーカスした際には、算定システムを使用した場合、システムの仕様において既に上場企業の決算データが搭載されている場合は、信頼性が高い、と述べる一方で、算定システムを用いていない場合は、金融機関が保有する決算データとの連携方法、期間帰属、集計データの適切性、正確性が審査のポイントとなる。と総資産データの信頼性についても言及をしています。
さらに、投融資先の排出量データについてもそのメリットデメリットを述べました。算定システムを使用する場合、システムの仕様において既に公表情報等から取得されているデータが搭載されている又は、搭載されている業界分類ごとの売上高排出量原単位等によって売上高情報等と組み合わされて算定されるため、データの信頼性が高いと言いました。
一方算定システムを用いていない場合は、企業の排出量情報の取得方法、推計等の適切性、正確性が審査のポイントとなると指摘。算定分析の前段階として、素地となるデータそのものも、こうしたツールの利用を高めていくのが必須だと分かりました。今や算定分析を始めることは当たり前の世界線となりました。その上のさらなるクオリティを求めていくことが、国際市場で生き残っていくためには必要だということが、倉内氏の講和にて実感できたのではないでしょうか。
3時間にわたる長丁場のセミナーとなりましたが、参加者はこれまでない知見に触れることで、休憩時にも会場では意見交換や質問が飛び交っていました。
セミナー終了後のネットワーキングタイムでも多くの交流が生まれ、サステナビリティに関わる各社のつながりが強固なものとなった時間なのは間違いないでしょう。
2回に分けて当日の様子をお届けしてきました。
このイベントを通じて、企業のみなさまにサステナビリティに関する行動変容のヒントがお届けできていたら幸いです。