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炭素会計 基礎講座

組織境界

Updated: 
December 6, 2024
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Overview

組織境界

オーバービュー

組織境界は、組織の事業および構造のどの部分をGHGインベントリに含めるべきかを決めるものです。

組織境界は、財務会計上の目的で法的な組織構造を定義するときと同様の方法で設定されます。

組織境界が定まっていれば、組織構造のどの部分をGHGインベントリに含めるか、それらをどのように分類するかを、一貫性をもって判断することができます。

多くの企業は複雑な構造を持っているため、企業のどの部分を、どの程度の割合でインベントリに含めるかを決める境界線が必要になるのです。

例えば、企業の組織構造には以下のようなものが含まれます。

  • 完全所有事業
  • 子会社
  • 関連会社
  • 合弁事業
  • フランチャイズ

連結基準の選択

企業が組織境界を設定するためには「連結基準」を選択します。 基本的に連結基準とは、企業のGHGインベントリに含めるGHG排出量(またはその割合)を決定するものです。

境界の設定、つまり連結基準の選択は、GHG排出量を算定・報告・管理する組織としての目的を考慮した上で行うことが重要です。 企業がどの連結基準を採用するかによって、計上する排出量の総量や、排出量を各スコープに振り分ける方法が大きく変わる可能性があります。

組織境界が定まったら、一貫性と比較可能性を確保するため、組織のすべての階層がそれに従わなければなりません。 親会社が組織境界を定め、すべての事業、子会社、投資先に同じ境界を適用する必要があります。

注:多くの場合、GHG排出量の算定・報告における境界線は、財務会計・報告目的で用いられる境界線と重なります。

連結基準には大きく2つあり、そのうち1つがさらに2つに分けられます。つまり、組織境界を設定する方法は全部で3つあります。

* 共同財務支配力を持つ場合(例:合弁事業)、出資比率基準を適用します。

支配力基準

まず、支配力基準について説明します。

支配力基準を採用した場合、企業は支配力を持つ事業からのGHG排出量を100%計上します。

財務上の利害関係は有しているが支配はしていない事業からのスコープ1、2排出量は、計上しません。 ただし、スコープ3排出量を報告する際にそれらの排出量を計上する可能性はあります。

支配力は、経営支配力または財務支配力のどちらかの観点で定義することができます。

注:PCAF(金融に関わる炭素会計のパートナーシップ)に加盟する金融機関は支配力基準を選択しなければならず、出資比率基準を採用することはできません。 これにより「投資活動」に関連する排出がスコープ3のカテゴリ15「投資」に振り分けられるようになっています。

PCAFについては、投融資先の排出(スコープ3)に関するモジュールで詳しく解説します。

経営支配力基準

経営支配力基準を採用した場合、報告企業は自社または子会社が経営支配力を持つすべての事業からの排出量を100%計上します。

‍経営支配力

経営支配力は、経営方針を策定して適用する完全な権限を持つことと定義されます。

例:すべての関連ブランドを所有・運営する小売企業は、それらのブランドに対して経営支配力を持っていることになります。

経営支配力基準は、組織境界を設定する際に最もよく用いられる手法です。なぜなら、この手法で設定される組織境界は、企業がビジネス上の意思決定に強い支配力を持ち、主導的にGHG排出量の削減や脱炭素目標の達成を推進できる組織範囲を反映しているからです。

経営支配力基準を選択した場合:

  • 報告企業は、自社または子会社が経営支配力を持つ事業からの排出量を100%計上します。
  • 報告企業は、経営支配力を持たない子会社の排出量は計上しません。
  • すべてのリース資産(ファイナンスリース、資本リース、またはオペレーティングリースによる)は、企業が完全所有し運営する資産とみなされます。したがって、リース資産からの排出量はスコープ1、 2に計上します。

財務支配力基準

財務支配力基準を採用した場合、報告企業は財務支配力を持つ事業からの排出量を100%計上します。 企業が持分を保有しているが支配力を持たない事業からの排出量は、計上する必要がありません。

財務支配力を持つとは、単に事業の半分を所有しているということではありません。法的所有権の状況よりも、企業と事業の実質的な経済関係を重視して判断します。

財務支配力基準

報告企業は、事業の業績に伴うリスクと利益の大部分を有している場合、その事業に対して財務支配力を持っていると言えます。 つまり、所有しているのが事業の資産の50%に未たなくても、その事業に対して財務支配力を有する場合があるということです。

例:財務支配力基準は、下請事業者を利用する鉱業会社などが採用します。

自社の100%の所有・運営下にない事業(体)を数多く有する組織に対して、この手法は一般的に選ばれます。

財務支配力基準を選択した場合:

  • 報告企業は、自社または子会社が財務支配力を持つ事業からの排出量を100%計上します。
  • 報告企業は、財務支配力を持たない子会社の排出量は計上しません。
  • パートナーが共同財務支配力を持つ合弁事業からの排出量は、出資比率基準に従って計上します(つまり、事業からの排出量を株式持分に応じて計上します)。
  • ファイナンスリースまたは資本リースにより保有するリース資産は、企業が完全所有し運営する資産とみなされます。したがって、これらのリース資産からの排出量はスコープ1、 2に計上します。 オペレーティングリースにより保有する資産からの排出量は、スコープ3のカテゴリ8に計上します。

出資比率基準

出資比率基準を採用した場合、企業は事業からのGHG排出量を事業における株式持分に応じて計上します。

例:報告企業がある組織の株式の65%を所有している場合、その組織の排出量の65%に責任を負うことになります。

企業がインベントリを作成する際は、正確な出資比率が適用されるよう、会計や法律の専門家に相談する必要があるかもしれません。

出資比率基準は、複雑な株式所有構造を持つ企業に広く用られています。例えば、傘下のさまざまな組織を部分的に所有している石油・ガス会社などが挙げられます。

出資比率基準を選択した場合:

  • 報告企業は、その組織構造内の各事業からの排出量をその事業への出資比率に応じて計上します。
  • ファイナンスリースまたは資本リースにより保有するリース資産は、企業が完全所有し運営する資産とみなされます。したがって、これらのリース資産からの排出量はスコープ1、 2に計上します。 オペレーティングリースにより保有する資産からの排出量は、スコープ3のカテゴリ8に計上します。

まとめ

ここまでの内容をまとめてみましょう。

3つの連結基準を下図に整理しました。