カーボンニュートラルとネットゼロ:排出量削減の仕組みと違いを知る
新たな気候変動対策が次々と登場する中、「カーボンニュートラル」と「温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロ」がそれぞれ何を目指しているのか、その違いを明確に区別して理解することは大変重要です。
「カーボンニュートラル」は、炭素排出量と除去量を差し引きゼロにしようという目標です。これに対し「ネットゼロ」は、二酸化炭素以外も含めたすべての温室効果ガスの排出量を正味ゼロにすることを目指すものです。
国連の報告によると、企業や組織、そして国が一体となって、「カーボンニュートラル」の一歩先を行く「ネットゼロ」の枠組みを構築しようとしのぎを削っています。
この二つの用語は同じ文脈で使われることも多いのですが、本来の定義は異なります。まずはその違いを把握することが、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関するパフォーマンス指標を正確に反映した合理的な経営判断を行うための第一歩です。
カーボンニュートラルとネットゼロはどう違う?
カーボンニュートラルとネットゼロはどちらもサステナビリティ実現に向けた取り組みです。ただしネットゼロには、既存の温室効果ガスを削減するソリューションとしての意味合いもあり、GHG排出量自体を減らすための戦略を提示している点がカーボンニュートラルとの大きな違いです。
ネットゼロが目指すのは、炭素除去プロジェクトのような外部ソリューションに頼るだけでなく、排出量自体の削減につながるソリューションを自ら生み出す仕組みです。 一方、カーボンニュートラルは、現在の排出量水準を相殺する持続可能なカーボンオフセット制度の開発に特化しています。
カーボンオフセットとの関連性
カーボンオフセットの目的は、大気中の炭素を除去することにより排出量を差し引きゼロにすることです。 カーボンオフセット制度がうまく機能すれば、大気中からの炭素除去量によって炭素排出量が相殺できるというわけです。
カーボンニュートラルに取り組んでいる企業がカーボンオフセット制度を導入するには、人工または天然の炭素吸収源を生かす方法のほか、炭素回収技術や森林再生の取り組みを活用する方法などがあり、科学的根拠に基づく目標設定イニシアティブ(SBTi)による一般的な勧告にも従う必要があります。
SBTiは企業に対して、炭素除去という手法に過度に依存せず、長期的な脱炭素化の取り組みを盛り込んだ気候変動戦略を策定するよう求めています。
>>カーボンオフセット制度の仕組みやカーボンクレジットの購入方法については、カーボンオフセットとは?【基本をわかりやすく解説】をお読みください。
カーボンニュートラルな企業とは?
SBTiの定義によると、企業が排出する炭素量とその除去量が均衡してはじめてカーボンニュートラルを達成することができます。
カーボンニュートラルを推進することが必ずしもGHG排出量の削減につながるわけではありませんが、気候変動に対応できる技術が進化するまでの一時的な手段として、カーボンオフセットの可能性に着目した点は有意義であると言えます。
カーボンニュートラルな企業であることは、事業活動に伴う排出量がゼロという意味ではないものの、他社に先駆けてGHG排出量の削減に取り組もうとする姿勢を示しています。
カーボンニュートラルの事例
2050年までにカーボンニュートラルな企業になると宣言している企業は数百社にのぼり、その中には以下のような大手企業も含まれています。
- Apple(アップル)(2030年までに達成)
- BP(ビーピー)(2050年までに達成)
- Delta Airlines(デルタ航空)(2030年までに達成)
- FedEx(フェデックス) (2040年までに達成)
- Ford(フォード)(2050年までに達成)
各社は、定期的にGHG排出量を算定した炭素会計報告書を提出するとともに、カーボンオフセット制度の導入により現在の排出量を相殺することに同意しています。 しかし、カーボンニュートラルに代表される企業のESGイニシアティブも万能ではありません。 カーボンニュートラルを目指すと宣言する前にそのメリットとデメリットを検討する必要があります。
カーボンニュートラル宣言をするメリットとデメリット
有名ブランドが環境汚染に反対する姿勢を示すことで、他社もその動きに追随し、サステナビリティを実現するイノベーションが生まれ、やがてそれらが新たな常識となっていきます。 しかし、カーボンニュートラル宣言がなされることで、他の企業や一般市民にとっては問題の根本原因がかえって分かりづらくなる恐れもあります。
ここでは、カーボンニュートラルの現状に関して一般的に検討すべき点や懸念点をいくつかご紹介します。 まず、カーボンニュートラル宣言をするメリットは以下のとおりです。
- 定期的に炭素会計を行う体制が整い、全社レベルで気候変動対策への意識や責任感を高めることができる。
- 排出量への説明責任を果たす取り組みを契機として、さらに持続可能な手法や方針の導入が促される。
- 2050年までの完全な脱炭素化が難しい業界は、削減できない炭素排出量をカーボンオフセットで補える。
続いて、カーボンニュートラル宣言に関する懸念点です。これらは、カーボンニュートラルの先を見据えて脱炭素化に取り組む企業にとっては、逆に成長のチャンスと言えるかもしれません。
- 誤情報の拡散を防止し、大企業が排出量に対する説明責任を果たせるようにするためには、より厳しい規制が必要であるという批判的意見がある。
- 企業は現状のまま温室効果ガスを排出し続けることもできるため、カーボンニュートラル戦略によって有意義な取り組みが阻害される恐れがある。
- カーボンニュートラル戦略は二酸化炭素の削減のみを重視しており、他の温室効果ガスから目を逸らしている。
カーボンニュートラルをめぐる問題の主な原因は、現状のビジネスモデルの範疇で排出量削減を宣言する企業が少ないことにあります。つまり、カーボンフリー(炭素排出量ゼロ)を目指すのではなく、カーボンニュートラルにとどまろうとする企業のほうが圧倒的に多いのです。
ネットゼロとは?
SBTiの定義によると、ネットゼロとは、企業のGHG排出量と除去量が等しくなり、排出量が差し引きゼロになることを目指す目標です。 SBTiの基準に沿ってネットゼロ達成を目指すのであれば、まず排出量を90~95%削減しなければなりません。
カーボンニュートラルが二酸化炭素排出量のみを重視しているのに対し、ネットゼロの場合はあらゆる種類の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、三フッ化窒素、フッ素系ガスなど)の排出量を抑えることに焦点を当てているため、一歩進んだ気候変動対策であると言えます。
排出量ネットゼロの目的は、大気の脱炭素化を効果的に進め、地球の気温を下げることです。 なお、パリ協定はすべての締約国に対して、不可逆的な被害を回避するため2050年までのネットゼロ達成を求めています。
>> ベイン・アンド・カンパニーとの共同ウェビナー「Race to Net Zero:ネットゼロへの道のり」では、テクノロジーを活用することでお客様の組織や業務のニーズに合わせて脱炭素化に取り組んでいる事例をご紹介しています。
ネットゼロの事例
SBTiは、排出量削減に向けた戦略の採用を積極的に進める3,000以上の企業と連携しており、 以下のような有名企業も既にこの取り組みに加わっています。
- Etsy(エッツィー):電子商取引プラットフォームとして初めて、配送に伴う排出量の差し引きゼロを実現。
- JetBlue Airways(ジェットブルー航空):国内線のカーボンニュートラルを達成。
- Logitech(ロジテック):製品パッケージにカーボンインパクトを詳しく記載。
- Microsoft(マイクロソフト):既にカーボンニュートラルを達成し、2030年までにカーボンネガティブの達成を目指す。
- Uber(ウーバー):2040年までに排気ガスの出ない車両を使用すると宣言。
SBTi誓約に署名したすべての企業は、定期的に炭素報告書を提出することに同意しており、定量的なGHG排出削減戦略を実行に移さなければなりません。 しかし、ネットゼロの動きに加わる企業が増えるにつれ、こうした高い目標に本当に効果があるのかどうか疑惑の目が向けられるようになっています。
SBTiが策定したネットゼロ基準では、すべての事業体に対し、バリューチェーンの枠を超えてスコープ1、2、3の排出量削減に向けた戦略を実施するよう促しています。
ネットゼロ宣言をするメリットとデメリット
ネットゼロ企業になるには大きな変革が伴います。そのため多くの企業は、ネットゼロを目標に掲げることを躊躇し、代わりにカーボンニュートラルへと舵を切ってきました。
確かに大ががりな改革を実行するのは困難ですが、リサーチ結果によると、ネットゼロをコミットする準備ができている企業は増えつつあります。 気候変動対策としてネットゼロを盛り込んだ計画を立てるメリットは以下のとおりです。
- ネットゼロ戦略はすべてのGHG排出量を対象としており、気候変動に対してカーボンニュートラルより大きなインパクトを与えられる。
- ネットゼロ宣言を通じて企業の競争力が押し上げられる。ステークホルダーや顧客側から見ればサスティナビリティへの取り組みに対する透明性が高まり、その影響は購買行動や投資判断にも及ぶ。
- 代替エネルギー備蓄を前提としたビジネスモデルの構築や、カーボンオフセット制度の一時的な導入など、ネットゼロ戦略にカーボンニュートラル施策も盛り込むことができる。
続いて、一部の企業がネットゼロ宣言に消極的な理由を探るため、ネットゼロのマイナス面も見ていきましょう。
- ネットゼロ戦略ではバリューチェーンの再構築が求められるため、ネットゼロ目標の達成は困難である。 気候変動対策を初めて講じる場合や、取引先が力のある大企業ばかりの場合は、こうした変化に対応するのは難しい。
- ネットゼロ戦略はまだ世界的に普及しておらず、2050年までのネットゼロ達成は非現実的であるという批判的意見がある。
- 大幅なGHG排出量の削減を行うことなくネットゼロ目標を達成したと偽って報告し、サステナビリティへの取り組みを装った虚偽の広報活動(グリーンウォッシング)を行う企業もある。
クライメート・ウォッチが提供しているネットゼロトラッカーでは、90か国以上がネットゼロ公式目標を文書で公開しています。 しかし、その中で排出量ネットゼロの実現に向けた対策を講じている国やクライメートポジティブに言及している国はまだほとんどありません。
クライメートポジティブとは?
カーボンニュートラルのさらに先を行くクライメートポジティブは、企業のバリューチェーンの外で排出される温室効果ガスまで除去し、環境全体にポジティブなインパクトを与ようというアプローチです。
このクライメートポジティブという考え方は、既に世界中の企業から支持を集めています。 スウェーデンのハンバーガーチェーン、Max Burgerが販売しているクライメートポジティブ・バーガーは、環境に優しい食事を美味しく提供することは可能であると証明するものです。 アウトドアメーカー、The North Faceが開発したクライメートポジティブ・ハットには、排出量以上の二酸化炭素を除去している農場で収穫されたウールが使用されています。
カーボンゼロとは?
カーボンゼロの企業とは、二酸化炭素を排出しない代替エネルギー源を使用している企業を指します。 例えば、太陽光発電や風力発電によるエネルギーを使用している場合、カーボンゼロであると言えます。
カーボンゼロ(カーボンフリー)のエネルギー源は、地球温暖化対策やクライメートポジティブ推進において重要な役割を果たしています。
世界中すべての企業がカーボンゼロに取り組み始めるにはまだ時間がかかりますが、一般消費者にとってカーボンゼロに近いライフスタイルを選択するハードルは下がりつつあります。
カーボンニュートラルまたはネットゼロの目標を策定するには
国連は、地球の急激な気温上昇を抑えるには、より野心的な気候変動対策が必要であると訴えています。 カーボンニュートラルまたはネットゼロの目標を策定することは、個人や企業・国が気候変動に立ち向かうためにできる現実的な方法です。
まずは、組織の現在の排出量を算定することから始めましょう。 現状を把握したうえで、二酸化炭素とさらには他の温室効果ガスの排出量削減にも寄与し得る効果的な行動計画を立てることができます。
気候変動対策目標を策定する際には、パリ協定に沿った測定可能・持続可能・改善可能な目標を掲げましょう。 もっと言えば、気候変動対策を促進する新しいテクノロジーを組み込める余地のある、柔軟な目標を設定するのが望ましいです。
重要なポイントは、 排出量に関する透明性を可能な限り確保することです。それが排出量を最大限に削減できる現実的なソリューションにつながります。
気候変動対策を実行するにあたっては、一般に大量の排出量データを収集し、報告書にまとめてステークホルダーや政府、そして組織全体に共有する必要があります。
自組織にとってカーボンニュートラルまたはネットゼロのどちらの目標が妥当なのかを見極めたうえで、パーセフォニの炭素会計ソフトウェアを使って、GHG排出量を記録追跡する方法を学びましょう。 このソフトウェアはGHGプロトコルに準拠しており、技術的な専門知識がなくても炭素会計に着手できます。