炭素を除去する方法としては、自然の吸収源を生かす方法のほか、炭素回収・貯留(CCS)や再生可能エネルギー、森林再生などの技術を用いる方法があります。
世界では脱炭素化の流れが加速しており、カーボンオフセットはネットゼロ達成という企業の野心的な計画において重要な役割を担うようになっています。 特に脱炭素化が難しい航空や石油・ガスなどの分野を中心に、近年カーボンオフセットへの期待が高まりつつあります。
一方、カーボンオフセットという概念自体に対して批判がないわけではありません。 たとえば、カーボンオフセットを使うことで大規模な排出者(石油・ガス会社など)が削減を怠る口実になりえる、という指摘です。 さらに、相殺の実効性を検証する国際機関のなかに、いわゆる「信頼できる唯一の情報源(SSOT)」がないことも懸念されています。現状、カーボンオフセット・プロジェクトの無法状態が続いている事実は否めません。
本記事では、カーボンオフセットの概要、その機能と種類、さらに脱炭素計画において果たしうる役割について解説します。
カーボンオフセットの仕組みとは?
カーボンオフセットを実行する企業は、炭素削減プロジェクトの所有者や仲介業者から削減量を買い取ることができます。 その収益は、炭素の除去や排出回避を計画・実行するための費用に充てられます。 最終的に、買い手企業は炭素情報開示でオフセット(相殺)を申告し、買い取った削減量を差し引いた排出量を報告できます。
炭素除去・排出回避プロジェクトのオーナーは、削減量をオフセット用クレジット(排出権)として売却し、その収益をプロジェクト運用費に充当します。 プロジェクトには、危機に瀕した森林を保護するものもあれば、新技術によって大気中の炭素を除去し、貯蔵するものもあります。 相殺される炭素排出量は、二酸化炭素換算(CO2e)で表すのが一般的です。
オフセット用クレジットが売りに出された段階で、買い手企業はそのクレジットを吟味し、購入手続きに入ることができます。 以下、その手順を解説します。
自社の排出量を算出する
企業がまず取り組むべきは、自社の炭素排出量を算出し、どこかに排出量削減の余地がないか確かめることです。 それでも削減できない排出量を、カーボンオフセットの仕組みを利用して相殺するという流れです。 購入したオフセット削減量は、自組織の温室効果ガス排出量全体から差し引くことができます。 ただし、炭素会計の国際基準である「GHGプロトコル」では、スコープ1(自らによる直接の排出)、スコープ2(外から調達する電力や燃料を通じた排出)、スコープ3(バリューチェーンから生じる間接的な排出)のすべてを報告することが求められており、 カーボンオフセットによって報告自体が免除されるわけではありません。
オフセット・プロジェクトを吟味し、クレジットを購入する
インターネット上で検索すると、カーボンオフセット用クレジットを販売しているレジストリ(登録簿)がいくつか見つかります。 たとえば、国連カーボンオフセット・プラットフォームには、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に基づき認証された温室効果ガス除去・排出回避・削減プロジェクトが掲載されています。
ほかにも複数のプラットフォームや制度があり、さまざまな基準や認証方法によってカーボンオフセットの質を担保しています。 たとえば「ISO 14064-2」などの規格は、カーボンオフセット制度において、プロジェクトの実効性を検証する手引きとして利用できます。 その一方、独自の施策や手法でカーボンオフセットを管理する自治体もあります。
たとえば、米国の東部諸州が参加している地域温室効果ガスイニシアティブ(RGGI)がそうです。 RGGIは厳格な申請手続きによってプロジェクトを審査するとともに、継続的な検証とモニタリングも義務付けています。 プロジェクトの実効性を示す基準やその検証方法、条件については後述します。
オフセット用クレジットを購入する企業は、プラットフォームを見つけ、プロジェクトの質を確認するだけでなく、支払った代金の使われ方も理解しておく必要があります。 なぜなら、プロジェクト運営に全額充てるのではなく、プラットフォームや仲介業者が出資金の一部を自らの取り分とすることもあるからです。 逆に、資金が直接プロジェクトに充当されるような仕組みを設けているプラットフォームもあります。
ここで大切になってくる概念、「 コンプライアンス市場」と「ボランタリー市場」について簡単に解説します。
- コンプライアンス市場は、連邦政府などの規制要件を満たすために購入されるオフセット用クレジットの市場です。
- ボランタリー市場は、命令や義務に基づいたものではなく、組織や個人が自主的に購入するオフセット用クレジットの市場です。
カーボンオフセットの報告
オフセット用クレジットを購入した企業は、その所有権の証明書を受け取ります。 この証明書があれば、炭素情報を開示する際などに、購入したクレジットを自社の排出量から差し引いて報告できます。 質の高いプロジェクトであれば、報告書の補強材料となりえる関連情報も手に入るでしょう。
信頼度の高いカーボンオフセット・プロジェクトの条件は?
質の高いカーボンオフセット・プロジェクトの条件は、1. 永続性と追加性があること、2. 二重カウントがない(同じクレジットを2人以上に売らない)こと、3. プロジェクト以外の場所で排出していないこと、4. 実効性を検証できること、です。 そうした質の高いプロジェクトを見分ける手がかりとして、第三者機関の認証が頼りになります。 認証運営団体は通常、科学者を雇うとともに、申告される削減量が妥当かどうか算定・検証するリソースを確保しているからです。 しかし、質の高さを示す条件を自らの知識として大まかに把握しておくことも、プロジェクトを見極める際に役立つでしょう。
以下、プロジェクトの選定で考慮すべき事柄をいくつかご紹介します。
永続性
永続性とは、大気中から取り除いたり、大気中への排出を防いだりした炭素が、後で再び排出されないことを指します。 たとえば、炭素回収・貯蔵プロジェクトが永続的とみなされる理由は、その炭素が大気中に逆戻りすることがないからです。 永続性は「10年」「100年」といった年単位で測定されます。
一方、森林プロジェクトは、永続性を欠く恐れのあるカーボンオフセットの典型です。 山火事や伐採など、自然の脅威や人的脅威から完全に保護された森林でない限り、吸収された炭素が大気中に再放出される可能性があるからです。
追加性
追加性とは、オフセット用クレジットに対して出資しなければ、その分の炭素削減は実現しなかった状態を指します。 たとえば、炭素除去技術への投資に追加性が認められるのは、その資金がなければ技術開発の費用を賄うことは不可能な場合です。
一方、炭素削減量を売らなくても実現できた炭素除去・排出回避プロジェクトには、追加性はありません。 たとえば、削減量の購入を通じて森林を保護し、乱伐を防ぐことは可能です。 しかし、そもそも対象となる森林に破壊される危険がなかった場合、本来そのプロジェクトには追加性は認められないかもしれません。 あるいは、オフセット費用がなくても、法令遵守(特定の業種全体に再生可能エネルギーへの転換を義務付ける法律など)を理由にどのみち実施されていたと考えられるプロジェクトも、追加性がないと言えます。
二重カウントの禁止
二重カウントとは、あるプロジェクトのクレジットとして分割する際、一つの枠を複数の組織や個人に申告・所有させることです。 二重カウントによって、炭素会計に不正が生じ、誤った炭素排出量の申告につながりかねません。 これまで、カーボンクレジットの認証基準「ゴールド・スタンダード」の運営元をはじめ、各団体が二重カウント対策のガイドラインを整備してきました。
カーボン・リーケージ(炭素漏れ)の禁止
カーボン・リーケージとは、ある場所でカーボンオフセットを行ったことで、別の場所の炭素排出量が増加する状態を指します。
森林保護プロジェクトにはカーボン・リーケージの可能性が潜んでいます。 たとえば、クレジットの購入を通じてA地区の森林破壊を防ぐことができたとします。 しかし、保護政策が比較的緩和されているB地区の森林が代わりに伐採されるのであれば、そのプロジェクトは「リーケージあり」とみなされます。
検証可能性
検証可能性とは、カーボンオフセット・プロジェクトによって削減または回避された炭素排出量の申告について、正当な第三者機関が検証できる状態を指します。 なお、検証は現地調査やモニタリングによって実行されます。 プロジェクトには、排出量を申告する際の方法論や算定作業に関する透明性が求められます。
2種類のカーボンオフセット・プロジェクトとは?
カーボンオフセット・プロジェクトには、1. 自然によるオフセット(ナチュラル・オフセット)と、2. 技術によるオフセット(テクノロジカル・オフセット)の2種類があります。 前者では、炭素排出を相殺する自然の営みを保護・補強します。後者では、革新的な技術を使って機械的に炭素を吸収し貯蔵します。また、吸収技術をさらに詳しく分けると、1. すでに大気中にある炭素を吸収する方法と、2. 工業製品の生産工程で生じる炭素をじかに吸収する方法があります。
どちらのオフセットにも長所と短所があります。 以下、それぞれの全体像を見ていきましょう。
自然によるオフセット(ナチュラル・オフセット)
”自然によるオフセット(ナチュラル・オフセット)”の代表例は、森林保護です。ほかにも、1. バイオ炭による炭素固定(二酸化炭素を吸って育った間伐材などを分解しにくい炭にして、農地などに埋めて貯留する)、2. 二酸化炭素(CO2)鉱物化(条件を満たす地層にCO2を注入し、地中の岩石の成分と結合させて個体にする)、3. 海洋肥沃化(海洋に栄養を加え、植物性プランクトンの光合成を促進する)などがあります。 自然によるオフセットの利点は、炭素を吸収・固定する自然の営みを守り続けられるよう、ただちに行動を起こせることです。
自然の営みに基づく手法が好まれる理由は、ほかにもあります。それは、土地の用途変更や森林再生を通じて自然の炭素吸収源が守られたり自然の営みが復活したりした結果、一石二鳥の効果が得られる場合があることです。 どんな効果かというと、たとえば、生物多様性が高まるとか、人や自然のレジリエンス(抵抗力)が向上し、気候変動への適応力がつくといった利点が考えられます。
しかし、人類がこれまで排出しこの先も排出し続ける過剰な炭素を除去・削減するには、自然の営みによる方法だけでは不十分であり、技術によるオフセットを同時並行で実施する必要があるでしょう。
技術によるオフセット(テクノロジカル・オフセット)
周知の事実として、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上だけでは、脱炭素社会は実現できません。 産業革命前を基準とした地球気温の上昇を1.5度未満に抑えるには、過去に排出された炭素を大気中から取り除かなければならないのです。 そのため、自然によるオフセットに加え、新技術を駆使して炭素を除去・削減することが求められます。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2050年までにネットゼロを達成するシナリオのほぼすべてにおいて、技術による炭素除去を想定しています。 たとえば、エネルギー作物から燃料をつくり、その過程で発生する二酸化炭素を回収して地中に埋める炭素回収・貯留付きバイオエネルギー(BECCS)はそういった炭素除去技術の一つです。また、大気中の二酸化炭素を吸収して地中に埋める直接空気回収(DAC)という技術もあります。
ただし、技術によるオフセットは炭素排出量の相殺に役立つ一方、歴史の浅い手法が多く、完全に成熟していない点は否めません。 また、コストやエネルギーがかかるため、大規模な炭素の回収を実現することも困難です。
とはいえ、技術によるオフセットには即効性という大きな利点があります。 直接空気回収のような手法なら、プロジェクト開始の直後から炭素が除去され始めます。これに対し、自然の営みに基づく手法の場合、プロジェクト開始から効果が表れるまで長い年月がかかります。 たとえば、新しい森林が十分な量の炭素を取り除くまでには、数十年かかることもあるでしょう。
カーボンオフセット・プロジェクトの事例
再生可能エネルギーを開発するプロジェクト、そして、炭素の回収・利用・貯蔵(まとめて「CCUS」と呼びます)のどれかに特化したプロジェクトなど、さまざまなカーボンオフセット・プロジェクトが存在します。
以下、代表的な取り組みを実例とともにご紹介します。
- バイオマスプロジェクトでは、有機物を使って炭素を隔離・貯蔵します。 たとえば、レビツリー社は枯れ木を砕いて地中に注入し、炭素を隔離しています。
- 森林プロジェクトでは、再植林による森林再生や、もともと木のない土地への新規植林、森林破壊の防止、森林管理の改善などを実施します。 ここでは基本的に、樹木が炭素を貯める性質を利用しています。 たとえば、中国北部の内モンゴル自治区、克一河で実施されている森林管理改善(IFM)プロジェクトは、保護対象の森が伐採されないよう集中的に取り組んでいます。
- 鉱物化プロジェクトでは、炭素を個体鉱物に変化させ、ほかのプロジェクトに利用します。 たとえば、カーボンキュア社の炭素コンクリート化プロジェクトでは、二酸化炭素とセメントを混ぜ、永続的に貯蔵します。
- 海洋プロジェクトでは、海中に炭素を隔離します。 たとえば、ランニング・タイド社の海藻隔離プロジェクトは、海中での二酸化炭素自然吸収を加速させるため、海藻の繁殖を促進することに力を入れています。
- 土壌プロジェクトでは、土壌の管理を改善し、より多くの炭素を貯蔵できるようにします。 たとえば、グラスルーツ・カーボン社による再生的放牧プロジェクトは、土地管理の改善を通じて土壌の質を高め、炭素貯蔵量を増やします。
- 再生可能エネルギープロジェクトは、再生可能エネルギーの供給力を生み出し、維持する取り組みです。 たとえば、「トルコ・デュズジェ・アクス・プロビンス水力発電プロジェクト」では、同国北西部デュズジェ県を流れるアクス川で水力発電所を建設・運営しています。
- 浄水プロジェクトは、水を煮沸消毒したり、きれいな水を汲むために移動したりといった生活習慣から発生する炭素排出を抑える取り組みです。 たとえば、ナザバ・ウォーター・フィルターズ社の浄水器があれば、飲料水を得るために化石燃料を使って沸騰させる回数は少なくて済みます。
- ガス回収プロジェクトでは、ガスを回収してエネルギーに転換します。 たとえば、アベン社のメタン再活用プロジェクトは、畜産農家から動物のし尿を収集してバイオガスに転換し、ポンプの動力や発電機の燃料として活用します。
- エネルギー効率プロジェクトでは、電力普及率の向上やエネルギー消費の削減に取り組みます。また、エネルギー効率の高い技術を地域コミュニティに普及させる取り組みもここに含まれます。 たとえば、ネパールでのプロジェクトでは、南部タライ地方中心部のダリット、ジャナジャティの住民に燃料効率の高い料理コンロを提供しています。料理中のまきの使用量を減らすとともに、大気汚染を最小限に抑えるためです。
カーボンオフセット・プロジェクトが実施される場所は、クレジットを購入する企業の本社からは物理的に距離がある場合もあります。しかし、すべての温室効果ガスは最終的に大気中で混ざり合うため、炭素除去は世界のどこで実施しても有効であると言えます。
炭素除去と炭素排出回避
炭素除去は、大気中から炭素を取り除くプロジェクトです。一方、炭素排出回避は、大気中への炭素排出を未然に防ぐプロジェクトです。
炭素除去によるオフセットでは、ベスタ社の沿岸炭素回収(CCC)プロジェクトのような、大気中から炭素を回収する事業に投資します。 このような炭素排出の削減に取り組む技術開発は世界中で続いており、大気中の炭素を除去することは、温暖化の抑制につながります。 また、地中やそれ以外の場所に炭素を永久貯蔵することも可能になります。
炭素排出回避によるオフセットには、ナチュラル・キャピタル・エクスチェンジ(NCX)社の森林クレジット取引市場のように、自然の炭素吸収源を守るプロジェクトがあります。 また、再生可能エネルギーを支援するプロジェクトも、炭素排出回避の取り組みに該当すると考えられます。再生可能エネルギーへの投資によって、化石燃料の使用が回避されるからです。
その他のよくある質問
カーボンオフセットの担当者や専門家が抱くであろう疑問について、もう少し掘り下げてみましょう。
カーボンオフセットは本当に効果があるのか?
きちんとした実態のあるカーボンオフセット・プロジェクトであれば、大気中から炭素を取り除く効果や、大気中への炭素排出を防ぐ効果が期待できます。 とはいえ、それだけで気候変動への対策が事足りるわけではありません。
カーボンオフセット・プロジェクトへの資金提供(投資)は、多くの好影響をもたらします。 まず、ほかの手段で費用が調達できない事業の資金繰りが可能になります。また、企業や研究機関がこうした取り組みに資金を投入するようになれば、炭素回収などの技術開発が促進されます。そしてプロジェクトの質が向上し選択肢も豊富になれば、企業にとっては炭素排出量を相殺できる手段が増え、柔軟に選べるようになります。
しかし、オフセットは見せかけに過ぎないという考え方も存在します。 仮に、実効性の疑わしい未検証プロジェクトでオフセットしても、それは企業の排出量のごまかしに過ぎない可能性があるのです。つまりオフセットという手段が、大量の温室効果ガスを出している企業のグリーンウォッシュ(環境配慮を騙ること)に使われる、という批判です。
確かに、カーボンオフセットの正当性には、まだ多くの疑問があります。 たとえば、炭素削減量の永続性を担保する方法です。 森林による炭素削減を謳うプロジェクトは、どうやって伐採や山火事から森林を守るのでしょうか? あるいは、プロジェクトの追加性を確保する方法にも疑問が残ります。 将来的に伐採される予定がまったくない森林をクレジットとして販売することは、果たしてオフセットの概念として適切なのでしょうか?
カーボンオフセットには管理機関や統一された世界基準がないため、プロジェクトの立案や実施段階で説明責任が果たされない恐れもあります。 しかし昨今、オフセットへの疑念を晴らし、正当性への疑問に答えようとするミッション志向企業が現れているのも事実です。 そうした企業はすでにオフセットという分野に進出し始めており、取引されるクレジットの質を保つため第三者による検証を行うことで、オフセットの正当性を守ろうとしています。
カーボンオフセットはネットゼロを目指す道のりにおいて重要な役割を果たしますが、脱炭素化やエネルギー効率向上の代替手段にはなりえません。
オフセットを行う際の第一歩となるのは炭素排出量の正確な測定です。次に、再生可能エネルギーへの転換やエネルギー効率向上など、比較的実現しやすい排出量削減対策を実行します(いわゆる「低い枝の実」の収穫)。それでも残った排出量をオフセットの仕組みを使って打ち消すのです。
カーボンオフセット・プロジェクトの検証方法とは?
カーボンオフセットを検討する際は、業界標準となっている第三者機関や規格を目安にし、購入を検討しているプロジェクトが適正かどうか確認することをおすすめします。 購入の是非を見極めるには、該当プロジェクトの実効性がどのように検証されているのかを確かめる必要があるからです。 これらは世界標準とは言えないものの、カーボンオフセットの実効性を測る指標・目安として活用できます。
以下、カーボンオフセットの規格や検証のための事業をご紹介します。
- クライメート・アクション・リザーブは、2001年に創設された非営利環境団体です。オフセット・プロジェクトの第三者検証を担う独立団体の審査および認定、規格の策定、クレジット状況の追跡・公開を行っています。
- ゴールド・スタンダードは、2003年に策定されたカーボンクレジット認証基準です。持続可能な発展に貢献しながら質の高い環境規範を遵守している炭素削減プロジェクトに対して、認証を与えています。
- 炭素検証基準(VCS)は、2005年に制定された、(有志の)炭素市場で取引されるクレジットを認証する仕組みです。非営利団体「ベラ」が運営し、厳格なプロジェクト評価と審査を行っています。
- SCSグローバル・サービス社のカーボンオフセット検証事業は、2007年に始動しました。同社の認証対象となるのは、VCSや米国炭素レジストリ(ACR)などのプロジェクトです。
- ISO 14064-2は2019年に策定された規格です。温室効果ガスの除去促進・排出削減量をプロジェクト単位でモニタリングし、算出・報告する際のガイダンスを定めています。
上記のほか、英国オックスフォード大学も2020年にオックスフォード・オフセット原則を策定し、ネットゼロ目標に沿った信頼できるオフセットのガイダンスを公表しています。
植林によるカーボンオフセットは本当に可能か?
森林は光合成によって二酸化炭素を吸収するため、植林で炭素排出量を相殺することは可能です。 森林が大気中から炭素を取り除くことは証明されています。したがって、その自然の仕組みを活用できる植林事業は、カーボンオフセットの手法として広く支持されています。
森林によるオフセットの一つの大切な概念である炭素循環について、簡単にご説明します。 炭素循環とは、炭素が有機物や水中(海・河川・湖)および土壌内に吸収された後、腐敗・分解や山火事、火山活動を通じて再び大気中に放出されるという生物地球化学システムです。 森林などによるカーボンオフセット・プロジェクトでは、炭素循環のシステムを活用し、土地の用途変更や森林再生によって炭素の吸収量を増やします。
しかし、森林再生や森林保護への投資だけでは、永続的に炭素排出を相殺し続けることは不可能です。 森の木が伐採されれば、その時点でオフセット機能が果たせなくなるからです。 また、山火事が発生した場合も、二酸化炭素などの温室効果ガスとして炭素は再び大気中に放出されます。 物理的に、森林や植林地は無限にあるわけではありません。 つまり、大手企業や政府が、炭素排出の相殺を森林だけに頼ることは不可能と言えるのです。
一方、森林以外にもバラエティ豊かなカーボンオフセット・プロジェクトは存在しています。それらに資金を投入することで、炭素除去・排出回避の取り組み全体を活性化することができるでしょう。
カーボンオフセットとカーボンクレジットの違いは?
カーボンオフセットは、企業の事業活動の範囲外で行われる炭素削減を指します。一方、カーボンクレジットは、企業や政府機関など、排出量取引に加わる組織どうしで売買できる一種の証券です。
端的に言えば、カーボンクレジットは「取引のためのツール」であり、カーボンオフセットは排出量を相殺するための炭素除去・排出回避プロジェクトで生じる「物理量」です。
両者を同じ文脈で使う人もいますが、それぞれ別々のものを示しうる言葉なので、パーセフォニでは区別して使用しています。 以下、「カーボンクレジット」についてわかりやすく解説します。
排出権取引における「カーボンクレジット」とは?
国・地域によっては、政府などが個々の産業や企業の炭素排出量に上限(キャップ)を設けています。 排出を認められた炭素の量(上限までの量)が「アローワンス(排出枠)」や「クレジット(排出権)」として各社に割り当てられる仕組みです。
「アローワンス(排出枠)」と「クレジット(排出権)」は、どちらも企業間で売買できます。 たとえば、A社がB社に「アローワンス」を売ると、B社に認められる炭素排出量(上限)が増えると同時に、A社に認められる炭素排出量(上限)が減ります。 ある企業が、排出量上限がもっと低くても事業を遂行できると判断すれば、その余剰分を売却できるのです。
こうした売買のことを、「排出権取引(または排出量取引)」や「キャップ・アンド・トレード」「アローワンス取引」と呼びます。 国・地域全体の炭素排出量を所定の水準に抑えるため、排出を認める炭素の総量を政府が決めることが、この仕組みの前提です。 売買を可能にすることで、産業全体や企業群全体の排出量を増やすことなく、各社が柔軟に排出量を管理できるようになります。
その国・地域全体で排出できる炭素の総量は変わらないため、アローワンスやクレジットは繰り返し売買できます。
カーボンオフセットのツールとしての「カーボンクレジット」
「カーボンクレジット」という用語には別の意味合いもあります。カーボンオフセット・プロジェクトで打ち消した炭素排出量を指す場合もあるのです。 獲得したクレジットは後で売ることもできますし、自社の排出量の相殺に使うこともできます。 ただし、二重カウントを防ぐため、排出量を相殺するために申告したクレジットは二度と売買できません。
企業におけるカーボンオフセットの活用方法
企業にとってカーボンオフセットは、自社の総合的な脱炭素化計画における一つの手法と位置付けられています。 しかし、オフセット・プロジェクトを購入してさえいれば自らの炭素排出行動を変えずにすむ、ということではありません。 最終的な目標は、組織が排出する炭素の総量を減らし、長い目で見てより効率的な事業運営を実現することです。
炭素情報開示の義務付けが広がり、企業には炭素排出量の測定や削減が求められています。こうした状況に対し、オフセットは脱炭素化計画を促進する有効な手段になりえます。 なぜなら、実質的な排出量削減のための業務改善には数年かかることもありますが、その間、オフセットの購入により排出量の一部を打ち消すことができるからです。
オフセット市場はより良い方向へと向かっていますが、同時に企業としても、自らの責任でプロジェクトの内容を精査し、購入判断を下さなければなりません。
まだまだ完璧ではないものの、カーボンオフセットの必要性は高まっています。 ネットゼロを達成するために炭素除去が必要なことは、もはや明白だからです。 こうした中、ネットゼロに向けて重要な役割を果たすオフセット市場の規模は、2021年に10億ドルだったのに対し、2030年には1800億ドルにまで拡大すると見られています。
パーセフォニはPatch(パッチ)と提携して仲介手数料のかからないオフセットを提供することで、できる限り多くの資金を実際のプロジェクトに充当しています。 両社が運営するカーボンオフセット取引所「Zero-Commission Carbon Offset Marketplace(ZCCOM)」では、これまでアクセスが制限されていたプロジェクトのネットワークを公開し、誰でも利用できるようにしています。