サステナブルファイナンスとは、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を考慮した金融活動(融資や投資など)の総称です。
今後、世界が持続可能な未来に向けた歩みを進めるうえで、金融セクターは大きな役割を担います。その役割はたとえば、1. 低炭素経済への移行を加速させる再生可能エネルギーへの投資を通じて、あるいは、2. 多様性・公平性・包摂性(DE&I)を追求する企業への支援を通じて、果たされるでしょう。世界の国内総生産(GDP)の55%は、健全な生態系サービスのうえに成り立っています。つまり、国際金融システムの持続可能性を高めることや、気候リスクの軽減は、サステナブルファイナンスの動向にかかっていることを意味します。また、サステナブルファイナンスのおかげで、投資家は投資先企業の透明性や説明責任といった情報をより得やすい状況になっています。投資先の持続可能性やESG要素を重視する投資家が、投資判断をする際の重要な情報源となっています。
サステナブル投資市場の規模は2022年末までに41兆ドルへと拡大し、2025年末には50兆ドル、世界の運用資産残高の3分の1相当に達する可能性があります。この勢いを受け、世界の投資の焦点はサステナブルファイナンスに移っています。
サステナブル投資とは?
サステナブル投資は、サステナブルファイナンスの代表例です。金銭的リターンを伴いながらESG要素を促進する投資であれば、すべてがサステナブル投資に当てはまります。サステナブル投資によって、企業は利益を最重要目標とするだけでなく、事業活動が環境や社会に及ぼす影響も考慮するようになります。
サステナブル投資家は、それぞれのESG目標に応じて異なる戦略を採ります。たとえば、企業やファンドを選定する際、環境や社会に好作用があることや、好作用を促進するガバナンスを実践していることを条件にする場合もあるでしょう。また、ESG慣行の劣る企業を候補から外す「ネガティブ・スクリーニング」や、ESG評価の高い企業を加える「ポジティブ・スクリーニング」といった選別法もあります。ESGに好結果を生む投資法には多くの種類があり、サステナブル投資はそれらの総称なのです。
サステナブルファイナンスの種類
サステナブルファイナンスやサステナブル投資には、実にさまざまな種類があります。以下、一部を紹介します。
- サステナブル海外直接投資(SFDI)——SFDIとは、持続可能性を目標とし、国境をまたいで行われる直接投資です。その多くが、先進国から開発途上国に対して行われます。SDFIは、国連が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で定めた諸目標、いわゆる「持続可能な開発目標(SDGs)」を達成する手段と見られています。■参考リンク:国際連合広報センターHP
- インパクト投資——インパクト投資とは、金銭的リターンの創出と並行し、環境や社会の改善作用(インパクト)の促進を目指す投資です。投資判断において、ESG関連活動や「企業の社会的責任(CSR)」に関する実績が考慮されます。
- 社会的責任投資(SRI)——SRIとは、具体的な社会・倫理基準に基づいて投資先を選択することです。兵器製造やたばこ事業など、社会に負の影響を及ぼす投資を避け、社会正義に関与する企業を探して投資することも、その一例です。
- グリーンファイナンス(環境金融)——グリーンファイナンスとは、ESGの3つの要素のうち「環境」の要素に充てる資金を融通することです。サステナビリティよりも範囲が絞られるため、脱炭素化や生物多様性の保護など、環境対策に投資を集中できます。グリーンボンド(環境債)や、グリーンローン(環境融資)、グリーン投資信託(環境投資信託)など、多くの実例があります。
金融セクターが持続可能で責任ある投融資を実践する方法は、ここに挙げた以外にも数多くあります。
SDGsとサステナブルファイナンス
国連の試算によると、SDGsの全17目標を2030年までに達成するには、世界全体で 年間3兆〜5兆ドルの支出が必要です。前述の通りサステナブル海外直接投資(SFDI)は目標達成に役立ちますが、国連開発計画(UNDP)は官民による金融分野の施策例をほかにも多数挙げています。
- SDG債:SDG債はSDGs達成への取り組みに投資する債券であり、SDGsに民間資金を呼び込む手段です。国債、公債、社債、プロジェクト債などバラエティ豊富で、機関投資家など主流投資家の多様な投資需要に合った市場を提供しています。
- SDGインパクト:SDGインパクトは、投資先を通じて人や地球に最大限の好作用を生み出せるよう、民間投資家を手助けする取り組みです。組織運営や意思決定にサステナビリティを組み込むための内部統制基準「SDGインパクト基準」と、各国の投資先情報を提供する「SDG投資家マップ」の2つを主要施策としています。
- 保険・リスクファイナンスファシリティ(IRFF):IRFFは、地域共同体の保護やレジリエンス(回復力)の構築に資する保険商品の開発支援を通じ、SDGs達成を支える制度です。開発途上国に保険市場を形成する目的で設けられました。5つの重点分野を互いに結びついた実務に分け、保険業界や政府と連携して取り組みを進めています。
国際金融市場は今、サステナブルファインスへの適応を進め、SDGsなどのサステナビリティ目標の達成と、サステナビリティリスクの最小化を図っています。また、これと並行して世界の規制機関はルールづくりを始めています。規制の目的は、サステナブルファイナンスを名実ともに持続可能な金融活動とし、投資家が自らのサステナビリティ目標に沿って投資できるようにすることです。米証券取引委員会(SEC)と欧州連合(EU)はそれぞれ、サステナブルファイナンスに関する新規則の施行に動いています。一連の規則は、サステナブルを謳う金融活動について一貫性や比較可能性、信頼性を備えた情報を投資家に提供し、グリーンウォッシュ(環境配慮を騙ること)を防ぐことを目指すものです。
ESG系ファンドの”名称規則”とは?
米証券取引委員会(SEC)は2022年5月、修正規則を提案しました。サステナブルファイナンスの透明性を高めるための開示規制(開示に必要なESGデータ)についてです。1つはファンド名称について、そしてもう1つは必要データについてです。この修正の目的は、1. ESG要素に関する情報開示を強化、標準化すること、そして、2. ESGを謳うファンドの名称に関する規則を拡充することです。
名称規則案については、「投資会社法」が現在定めている名称規則を修正し、投資ファンドによるグリーンウォッシュを防止する内容です。ファンド名に「サステナブル」「ESG」「グリーン」などの言葉を含むファンドに対し、1. その言葉に見合った投資先を含むこと、そして、2. それらの企業に資金の80%以上を集中させること、を義務付けます。
もう1件は、「環境・社会・ガバナンス(ESG)投資慣行に関する所定の投資顧問会社・投資会社による情報開示の強化」規則案です。提案の目的は、ファンドが考慮するESG要素について、関連指標の測定方法や根拠データに関する情報開示を標準化することにあります。ESG戦略を採用していると謳うファンドや投資顧問会社に対し、ESG要素をどう意思決定に組み込んでいるのかについて、(データとしての)情報提供の拡充を義務付けます。
〔EU〕サステナブルファイナンス情報開示規則(SFDR)
EUは「サステナブルファイナンス情報開示規則(SFDR)」を制定しました。規則の目的は、サステナブルを謳う投資商品の透明性を高め、グリーンウォッシュを防止することです。2021年3月以降、すべての金融機関を対象とし、会社レベルと商品レベルの2段階で包括的なサステナビリティ情報開示の義務付けが進んでいます。 ■参考リンク:サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が金融機関にもたらす影響 ~高まるグリーンウォッシュへの懸念~
サステナブルファイナンス情報開示規則(SFDR)は、投資家が自らの投資目的に最も近い投資商品を選択できるようにする規則です。そのため、サステナビリティ要素を投資に組み入れる金融機関や金融商品は、組み入れ度合いに応じた情報を開示しなければなりません。また、会社レベルの情報開示義務は、すべての金融機関が対象です。商品レベルでも、すべての金融商品にサステナビリティリスクの情報開示が義務付けられています。特に、ESGを促進する商品やサステナブル投資が目的の商品は「グリーン」に分類され、より詳しい情報を開示しなければなりません。一般的にEUは、より広範なサステナブルファイナンス行動計画を定めており、サステナブルファイナンス情報開示規則(SFDR)はそのなかで重要な位置を占めています。
〔EU〕サステナブルファイナンス行動計画
EUは加盟27カ国でのサステナブル投資を支援するため、広範なサステナブルファイナンス行動計画を定めました。そのなかには、サステナブルファイナンス情報開示規則(SFDR)のほか、EUタクソノミー(分類規則)やEUベンチマーク(金融指標)規則も盛り込まれています。
EUタクソノミーは2020年7月に発効しました。この規則には、ある金融活動が環境的に持続可能なのかどうか、分類・整理する役割があります。実質的に、何がサステナブルな経済活動なのか投資家や政策立案者、企業が理解しやすいよう明確に定義し、リスト化しています。サステナブルとみなされる金融活動を明示しているため、グリーンウォッシュを抑止するはたらきがあります。また、投資家が自らのサステナビリティ目標に基づき、より確かな情報によって判断を下すことにも役立ちます。
一方、EUベンチマーク規則は従来のEU金融ベンチマーク規則を改正したもので、2020年4月に発効しました。この改正は、ファンドが策定可能なESG(気候分野含む)関連のベンチマークに一定の基準・条件を求めるものとなります。基準として、1. 親インデックス(S&P500など)と比較して、”炭素強度”の昨年比削減を実証しなければならない、また、2. 気候変動に深く関わる産業(石油・ガス、運輸など)が考慮に含められている、などがあります。そのような基準を元に作成されたベンチマークを”気候ベンチマーク”と呼び、「パリ協定に関連するベンチマーク(EU PAB:EU Paris-aligned Benchmarks)」など2種類が存在します。このほか、ESGを考慮しているすべてのベンチマークに対し、ESG関連の情報開示を義務付けます。開示は、各資産において入手可能なデータの範囲で行われます。■補足説明:EU-PABは、それ自体が何らかのベンチマークなのではなく、基準を満たしたベンチマークに与える2種類のラベルの片方とのことです。EU-CTBとEU-PABという2種類のラベルがあり(条件の厳しさが異なる)、それぞれに該当するインデックスが多数存在するという関係。
持続可能な経済への移行における金融業界の役割
自然を搾取する現在の経済を転換し、その疲弊を癒やす力の源にするうえで、サステナブルファイナンスは重要な役割を担います。金融セクターは、持続可能な未来づくりに資本を振り向けるためのかなめです。投資や融資、保険の提供先を、”サステナビリティリスクを抑えながら商機をつかむ企業や事業”に絞り込むことで、我々の日々の生活にポジティブな効果が現れるでしょう。
経済が持続可能でないことは、個人や企業の財産にどのような影響を持つのでしょうか?今、その影響が認識され、低炭素型で持続可能な経済への移行へと資金が流れています。こうした移行に対する投資は、金銭的利益と環境・社会的利益の両方をもたらします。だからこそ、ここ数年で世界市場においてサステナブルファイナンス商品が成長しているのです。
低炭素経済への公正な移行を支えようとする金融機関にとって、「投融資先の排出量」の測定は重要な第一歩です。「投融資先の排出量」とは、金融商品・サービスを通じて間接的に生じる温室効果ガス排出量のことで、金融機関が責任を持つ排出量の大半を占めています。To find out more about financed emissions, download our free white paper. パーセフォニは、「投融資先の排出量」を将来的に削減していこうとする金融機関をお手伝いしています。ご興味のある方は、こちらからデモをお申し込みいただけます。