企業のGHG排出量管理の重要性が高まる中、サステナビリティ評価機関であるEcoVadisが注目を集めています。
この記事では、EcoVadisの評価の仕組みとGHG排出量算定の位置づけについて詳しく解説します。
EcoVadisとは
EcoVadisは、企業のサステナビリティパフォーマンスを評価する国際的な機関です。企業の環境、社会、倫理面での取り組みを包括的に分析し、その結果をスコアとしてまとめることで、サプライチェーン全体のサステナビリティ向上に貢献しています。
EcoVadisの評価は、世界185カ国以上、250以上の業種をカバーしており、グローバルなサプライチェーンにおけるサステナビリティリスクの管理に幅広く活用されています。
EcoVadisが評価する4つの領域
EcoVadisの評価は、企業のサステナビリティパフォーマンスを4つの領域に分けて行われます。それぞれの領域では、関連する国際基準や指標に基づいて、企業の方針や実施状況が詳細に分析されます。
4つの領域は以下の通りです。
- 環境:気候変動対策、資源管理、生物多様性保全など
- 労働と人権:労働安全衛生、ダイバーシティ、人権尊重など
- 倫理:腐敗防止、公正な競争、情報セキュリティなど
- 持続可能な資材調達:サプライヤーの環境・社会リスク管理など
これらの領域は、企業のサステナビリティにとって大事になる要素であり、EcoVadisの評価を通じて総合的に分析されます。各領域での高いパフォーマンスが、企業の持続可能性を支える土台となるためです。
EcoVadisの評価方法とスコアリングシステム
EcoVadisの評価は、企業が提出する自己評価アンケートと各種エビデンス資料に基づいて行われます。専門の分析チームが、国際基準や業界のベストプラクティスを参照しながら、企業のパフォーマンスを0から100点で採点します。
スコアリングの結果は、以下のようなメダルやバッジで表示されます。
- メダルの基準(2024年1月1日以降適用)
- プラチナ:上位1%(99パーセンタイル以上)
- ゴールド:上位5%(95パーセンタイル以上)
- シルバー:上位15%(85パーセンタイル以上)
- ブロンズ:上位35%(65パーセンタイル以上)
- 各メダルの具体的なカットオフスコアは、評価対象企業の全体的なパフォーマンスにより変動します。例えば、2024年7月1日時点では以下の通りです
- プラチナ:81点以上
- ゴールド:73点以上
- シルバー:66点以上
- ブロンズ:58点以上
- バッジの基準
- コミットメント(Committed)バッジ:総合スコアが45点以上の企業に授与されます。
- ファストムーバー(Fast Mover)バッジ:スコアが34~44点で、前回の評価から18か月以内に6点以上の改善が見られた企業に授与されます。
このスコアリングシステムにより、企業のサステナビリティパフォーマンスが一目で分かるようになっています。(参照:ECOVADIS)
EcoVadis評価が依拠する国際基準と指標
EcoVadisの評価は、国際的に認知された基準や指標に基づいて行われています。これにより、評価の客観性や信頼性が担保され、グローバルなサプライチェーンにおける共通言語としての役割を果たしています。
主な参照基準は以下の通りです。
- GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)
- 国連グローバル・コンパクト
- ISO26000(社会的責任に関する国際規格)
これらの基準は、企業のサステナビリティ報告や取り組みの国際的なガイドラインとして広く認知されています。EcoVadisは、これらの基準に沿って評価項目を設定し、企業のパフォーマンスを多角的に分析しています。
また、EcoVadisは業界特有の指標も考慮した評価を行います。例えば、製造業では環境管理システムの導入状況や資源効率性が重視される一方、サービス業ではダイバーシティや人権への配慮といった項目がより重要視されます。このように、企業の業種や特性に応じて評価基準を調整することで、より適切なスコアリングを実現を目指しています。
EcoVadis評価とGHG排出量算定
EcoVadisによる企業のサステナビリティ評価において、温室効果ガス(GHG)排出量の算定と管理は重要な位置づけにあります。ここでは、EcoVadisの環境評価領域におけるGHG排出量の重要性や、算定方法、スコアとの関係性などについて詳しく解説していきます。
EcoVadisの環境評価領域におけるGHG排出量の重要性
EcoVadisの評価は、環境、労働と人権、倫理、持続可能な資材調達の4つの領域から構成されています。その中でも、環境領域はサステナビリティ評価全体の重要な柱の一つであり、GHG排出量の管理はその中核を担っています。
企業活動に伴うGHG排出は、気候変動や地球温暖化の主な要因となっています。そのため、企業のGHG排出量を適切に算定し、削減に向けた取り組みを行うことは、環境負荷の低減と持続可能な社会の実現に不可欠です。EcoVadisの評価においても、GHG排出量の管理は高い比重を占めています。
GHG排出量算定の国際基準
EcoVadisにおけるGHG排出量を計算するにあたって、国際的に認められた基準が活用されています。代表的なものとしては、以下のようなものがあげられます。
- GHGプロトコル:企業のGHG排出量算定と報告に関する国際的なガイドライン
- ISO 14064:GHG排出量の定量化、報告、検証に関する国際規格
これらの基準に沿ってGHG排出量を算定することで、企業は自社の排出状況を正確に把握し、国際的な比較可能性を担保することができます。EcoVadisの評価においても、これらの基準に準拠した算定結果が重視されています。
EcoVadisスコアとGHG排出量の関係性
EcoVadisのスコアリングシステムでは、GHG排出量の管理状況が環境領域の評価に直接的な影響を与えます。GHG排出量の算定や削減目標の設定、具体的な削減施策の実施などが、高いスコア獲得のための重要なポイントとなります。
例えば、以下のような取り組みを行っている企業は、EcoVadisの評価において高い評価を得る傾向にあります。
- GHGプロトコルなどの国際基準に沿ったGHG排出量の算定と報告
- 意欲的なGHG排出削減目標の設定と達成に向けた具体的な行動計画の策定
- 再生可能エネルギーの導入や省エネ施策など、GHG排出削減につながる取り組みの実施
- サプライチェーン全体でのGHG排出量管理の推進
一方で、GHG排出量の算定や削減への取り組みが不十分な企業は、環境領域のスコアが低くなる傾向があります。このように、GHG排出量の管理状況は、EcoVadisスコアを大きく左右する大切な要因の一つになります。
GHG排出量削減への取り組みがEcoVadis評価に与える影響
EcoVadis評価において高いスコアを獲得するためには、GHG排出量の削減に向けた積極的な取り組みが欠かせません。単に排出量を算定するだけでなく、削減目標を設定し、具体的な施策を実行に移すことが求められます。
GHG排出量削減への取り組みは、以下のようなメリットをもたらします。
- EcoVadisスコアの向上:環境領域の評価が上がり、全体のスコアアップにつながります。
- 企業イメージの向上:環境に配慮した企業として、ステークホルダーからの評価が高まります。
- コスト削減:エネルギー効率の改善などにより、中長期的なコスト削減が期待できます。
- 規制リスクの低減:将来的な規制の強化に備えることができます。
特に、サプライチェーン全体でのGHG排出量の管理は、EcoVadis評価で重視されるポイントの一つです。自社だけでなく、取引先とも協力して排出量削減に取り組むことで、サプライチェーン全体の環境への影響を減らすことが期待されます。
このように、GHG排出量削減への取り組みは、EcoVadis評価の向上だけでなく、企業の持続的な成長と競争力強化にも寄与します。サステナビリティ経営の観点から、GHG排出量管理を戦略的に推進していくことが求められていると言えるでしょう。
EcoVadis評価による企業価値向上
EcoVadisの評価は、企業の競争力や評判、ステークホルダーとの関係性に大きな影響を与えます。ここでは、EcoVadis評価が企業価値の向上にどのようにつながるのかを詳しく見ていきましょう。
EcoVadisスコアの企業競争力への影響
EcoVadisの評価スコアは、企業の競争力に直接的な影響を及ぼすと考えられています。高いスコアを獲得している企業は、サステナビリティへの取り組みが高く評価され、ビジネスパートナーからの信頼を得やすくなります。
一方で、低スコアの企業は、取引停止や減少のリスクに晒される可能性があります。特に、大手企業や海外企業との取引においては、EcoVadisスコアが重要な選定基準となる場合もあります。したがって、競争力を維持・向上するためには、EcoVadisの評価基準に沿ったサステナビリティ施策の実施が求められます。
EcoVadis評価を活用したサプライチェーンマネジメントの強化
EcoVadis評価は、サプライチェーン全体のサステナビリティ管理に役立ちます。企業は、取引先のEcoVadisスコアを確認することで、サプライチェーンのリスクを把握し、適切な対策を講じることができます。
例えば、低スコアの取引先に対しては、改善に向けた働きかけを行ったり、代替先の検討を行ったりすることが可能です。また、自社のサプライチェーンにおけるサステナビリティの取り組みを、EcoVadisスコアを通じてステークホルダーにアピールすることもできるでしょう。こうしたサプライチェーンマネジメントの強化は、企業の信頼性や評判の向上につながります。
EcoVadis評価によるステークホルダーとのエンゲージメント向上
EcoVadis評価は、投資家、消費者、従業員など、様々なステークホルダーとのエンゲージメント向上に役立ちます。高いEcoVadisスコアは、企業のサステナビリティへの取り組みを可視化し、ステークホルダーからの信頼や支持を得るための強力なツールとなり得ます。
例えば、投資家は、EcoVadisスコアを参考にESG投資の意思決定を行うことがあるでしょう。また、消費者は、サステナブルな企業を選ぶ際の判断材料としてEcoVadisスコアを活用するかもしれません。従業員にとっても、自社のサステナビリティへの取り組みが高く評価されることは、モチベーションの向上や企業への信頼感や誇りを高めることにつながるでしょう。
まとめ
EcoVadisは、企業のサステナビリティ評価において、GHG排出量の算定と管理を重視しています。国際的な基準に則ったGHG排出量の適切な把握と削減への取り組みは、高いEcoVadisスコアの獲得に直結します。
経営層の理解と支援を得ながら、EcoVadis評価を自社のサステナビリティ強化の有力なツールとして戦略的に活用していくことで、GHG排出量管理の高度化と、企業の持続的成長の実現につながるでしょう。