ネットゼロとは、大気中の温室効果ガス(GHG)排出量が除去量と差し引きゼロになる状態を言います。
ネットゼロは野心的な目標です。それでも、気候変動による最も悲惨な結末を避けたければ、必ず達成しなければならない目標です。ネットゼロを達成できなければ、海水面が上昇して人が居住できない地域が現れたり、極端な気象現象が人類の生活に壊滅的影響をもたらしたりします。このほかにも、多くの危険な結果を招くおそれがあります。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、地球の気温上昇を(産業革命前を基準にして)1.5℃未満に抑えるためには、2030年までに世界の人為的な二酸化炭素排出量を正味ベースで2010年から45%削減し、2050年までにネットゼロを達成しなければなりません。
しかし残念なことに、今地球が私たちに発している警告はかなり高いレベルに達しています。その一例として、IPCCの第6次評価報告書、気候変動2021:自然科学的根拠によると、2011~2020年の9年間の地球の表面温度が、1850~1900年の50年間に比べて1.09℃上昇したことを明らかにしています。
実は、排出量の削減と開示に今すぐ取り組むことは、企業にとって財務的な恩恵をもたらす可能性があります。ネットゼロ達成が何を意味するのか、企業が知っておくべきことを以下に紹介します。
ネットゼロとは何をゼロにするのか?
排出ネットゼロの達成とは、すべての温室効果ガスの正味排出量をできる限りゼロに近づけるということです。企業としては、「GHGプロトコル」が定義するスコープ1、2、3の排出削減に取り組むことを意味しています。よりグローバルの視点で考えると、ネットゼロ目標は、パリ協定や、国連のRace to Zero(レース・トゥ・ゼロ)キャンペーンおよびNet Zero Coalition(ネットゼロ連合)などの関連イニシアチブと足並みを揃えるためにも、とりわけ重要な概念です。
「ネットゼロ」と類似語の違いは?
“ネットゼロ”という言葉はすべての温室効果ガスの排出が対象となりますが、一方で、炭素のみ、またはその他の排出ガスのみを対象とする言葉もあります。
企業(特にサステナビリティ担当者)としては、こうしたESG用語がどの排出ガスを対象としているのかを理解する必要があるでしょう。なぜなら、どの排出ガスが対象かによって目標達成に必要な行動が変わるからです。例えば、カーボンニュートラルを目指す場合、測定が必要なのは二酸化炭素(CO2)排出だけです。これに対し、ネットゼロ目標達成に取り組む場合は、すべての温室効果ガスの排出を測定しなければなりません。
温室効果ガスは、主にGHGプロトコルで定義されている次のガスを対象とします:二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)。
これらのガスはいずれも太陽の熱を保ち、温室効果を生み、地球の大気全体の熱を上昇させます。
以下「ネットゼロ」と混同しやすいその他の用語をいくつか紹介します。
- 「カーボンニュートラル」は、発生した炭素排出量と除去量を差し引きゼロにすることに焦点が当てられています。
- 「カーボンネガティブ 」は、大気から除去された炭素の量が放出された量を上回っている状態を指します。
- 「絶対排出量ゼロ」は、カーボンオフセットやその他の解決策を利用しなくても発生した排出量がゼロであることを言います。
- 「気候ニュートラル」は、温室効果ガス削減、水の使用、廃棄物管理なども含め、気候に対する全般的影響をニュートラルにすることに重点が置かれています。
- 「ネットポジティブエネルギー」は、建物に関連して使われるのが通例で、消費するエネルギーを上回る量の再生可能エネルギーがその建物自体で生成されることを言います。
- 「1.5℃との整合」は、一般的に地球の温度上昇を(産業革命前を基準に)1.5度未満に抑える国連目標に即していることを意味します。
上記のような専門用語の違いを把握しておくことは、企業がより現実的な目標達成に取り組むために重要です。
例えば、企業が排出量の算定に取り組む際、スコープ3に紐づくある特定のデータ入手が難しい場合、その部分を算定報告範囲から除外することも考えられます。この判断は、ささやかな事(僅かな量)に見えるかもしれませんが、このような除外が行われると、その規模がどうであれ、該当企業が気候環境に与えるインパクトの全貌を理解することが難しくなります。つまり、排出量と同量の削減をどう実行するかという判断も曖昧になってしまうのです。
世界はどうすればネットゼロを達成できるのか?
以下に実行可能なステップを挙げます。これらのステップを踏めば、グローバル社会はネットゼロ目標達成に近づくことができるでしょう。
世界の排出量を削減する
消費者、企業、政府がそれぞれの努力を結集すれば、世界の排出量を大きく削減できます。
消費者はライフスタイルを変え、温室効果ガス排出につながる行動を避けること、減らすことが必要です。例えば:
- 自家用車を使わずに公共交通機関を利用する
- エネルギー効率のよい家電品を家庭に取り入れる
- 飛行機を使う不要な旅は控える
- 家庭のエネルギー源を再生可能エネルギーに切り換える
ネットゼロ達成に向け、個人レベルの行動を変えることは非常に重要です。とはいえ、世界の排出量削減に決定的な影響を及ぼすことができるのは、やはり企業や規制当局となります。
企業が排出量削減に取り組むのは今やマストである
「Nature Climate Change(ネイチャークライメトチェンジ)」に発表されたある研究では、二酸化炭素排出量の5分の1が多国籍企業のグローバルサプライチェーンに由来することが明らかにされています。CDPのCarbon Majors report(カーボンメジャーレポート)は、1988年から2017年の間に排出された産業由来の温室効果ガスのうち、71%が化石燃料生産企業100社に関連していることを突き止めています。
企業が脱炭素化を進める際の出発点になるのは、スコープ1、2、3の排出量を見定めたうえでの削減努力です。努力の例としては、1. 電力設備での再生可能エネルギーの使用、2. 排出削減のための輸送ルートの改善、3. 従業員にエネルギー効率のより高い機器を提供する、といった行動が挙げられます。また、目標達成の軌道から逸脱しないために、定期的に透明性の高い開示報告を行うことも鍵となります。
ネットゼロを達成するため、各国政府が負う責任は、排出関連の開示報告の義務化や、全業種の排出削減について、規制要件を作成し施行することです。
変化を早急かつ効果的に起こすには、政策要件と規制は必須なのです。以下に、昨今世界で新たに導入された要件と規制の例をいくつか紹介します。
- 州横断型大気汚染規制(CSAPR)は、米国東部の州に対し、煤煙・スモッグ公害の原因になっている発電所由来の排出の削減を規制しています(米国環境保護庁)。
- オーストラリアの2022年気候変動法案は、2005年を基準として、2030年までに温室効果ガス排出量を43%削減し、2050年までにネットゼロを達成することを目指しています。
- 結果的修正案では、上記法案の中の14の条例を修正することで、具体的な目標を法案に盛り込む動きが示されています。
- 2021年海洋電力インフラ法 は、関係閣僚に対し、海上の再生可能エネルギーインフラに適した地域を公表する際に、オーストラリアの温室効果ガス排出削減目標を考慮するよう要求しています(修正中)。
ネットゼロ実現へ向けて、国や地域によって、利用できる資金や技術の違いがあることは事実です。
国連は、この格差に対処するため、各国のコミットメントや能力に基づき、3つのグループ分けを行っています。以下に解説します。
- 附属書I国:1992年時点で経済協力開発機構(OECD)加盟国だった先進国、および市場経済移行国(EIT国)で構成されます。
- 附属書II国:附属書I国の中のOECD加盟国のみで構成されます。これらの国には、発展途上国の排出削減の取り組みを支援するために資金を提供する義務があります。また、環境保全に貢献する技術の開発と、市場経済移行国(EIT国)や発展途上国への技術移転を促す義務も負います。
- 非附属書I国:大半は発展途上国で、パリ協定の目標達成に向けた進捗状況を報告する隔年更新報告書(BUR)を提出する必要があります。自国の削減の取り組みを効果的に拡大するためには技術支援と資金援助が必要であるとして、国際社会に向けて注意喚起の活動も行っています。
必要に応じ質の高いオフセットを利用する
多くの企業は、質の高いカーボンオフセットを利用して自社のサステナビリティ目標を達成しようとしています。ただし、カーボンオフセットだけで世界がネットゼロに移行することは不可能です。ちなみに、カーボンオフセットプロジェクトの種類としては、炭素の回収・貯留や、自然のカーボンシンクの保護・強化が存在します。
科学的根拠に基づく目標(SBTi)の企業ネットゼロ基準によると、企業がネットゼロ目標を設定するためには、2015年を基準年として2030年までに排出を50%、2050年までに90~95%削減する計画を立てる必要があります。同基準では、企業が残りの5~10%の排出を炭素除去などの技術によって帳消し(相殺)することも提言しています。
ネットゼロは今のところ、どの産業にとっても達成可能(現実的)な目標ではありません。現時点で排出100%削減が不可能な産業の一つは航空産業です。この種の産業も恒久的な対策を進めていますが、同時に、質の高いオフセット導入は不可欠となっています。
企業が炭素排出量を本当の意味でオフセットするためには、購入するオフセットプロジェクトが採用している排出除去または回避が恒久的なものでなければなりません。カーボンオフセットプロジェクトの中には、例えば、排出を恒久的に回避または除去するのではなく、排出の発生を遅らせるだけのものも存在するからです。オフセットされた炭素が自然作用や人為的活動によって再び大気に放出され、一度は実現した除去や回避が帳消しにならないよう徹底することがオフセットプロジェクトには求められています。
カーボンオフセットを利用することで、企業が排出報告義務を免除されるわけではありません。GHGプロトコルは、企業にはスコープ1、2、3全体の絶対排出量を報告する義務があると規定しています(オフセットを差し引いた量を報告できない)。
企業としてはまず、排出を削減し、再生可能エネルギーを取り入れ、従業員の通勤を最小限に抑えるといった努力に取り組むことが先決であり、こうした努力をするべきです。カーボンオフセットを利用するのはその後です。
排出を減らす、または排出を回避するソリューションに投資する
恒久的に排出を削減、回避していくソリューションには、自然のプロセスを強化する方法と、新たな技術開発により斬新な手段を活用する2種類の方法があります。
地球が持つ自然な作用には、排出される特定の温室効果ガスを吸収または除去するものがあります。例えば、森林や海洋は天然の”カーボンシンク”です。つまり、森林や海洋が自然に大気中の炭素を吸収するということです。また、メタンは、メタン循環中にヒドロキシルラジカル(OH)が大気メタンと反応すると、対流圏および成層圏内で除去されます。
カーボンシンクは効果的ではありますが、地球上の温室効果ガス排出量は今や自然のプロセスが吸収、除去可能な量を上回っています。その結果、大気中の排出量が過剰になり、熱が閉じ込められて地球温暖化が進んでいるのです。
このため、新しい技術的ソリューションを考案し、このソリューションによって自然のカーボンシンク機能を高めること、そして、排出された温室効果ガスを吸収、貯留する新たな方法を開発することが必須となります。
技術革新の例として、以下に2つの企業の取り組み事例を紹介します。
- チャーム・インダストリアル社は、バイオマスをバイオオイルに変え、これを地球に再注入して長期貯留しています。この高速熱分解プロセスでは、まずトウモロコシの葉や茎などのバイオマスを加熱して、バイオオイルと灰混合物を生成します。灰は農家がカリ肥料として使用します。
- ソイルフード社は、土壌改良の取り組みとして、製紙・パルプ産業の副産物を使った土壌改良繊維をつくっています。 これらの副産物は従来パルプ・製紙工場において焼却処分するしかなく、大気中への炭素排出の原因になっています。
多くのソリューションの焦点は炭素除去に置かれていますが、排出されるほかの温室効果ガスを除去するソリューションも必要です。Aガス社が進めるV-1プロジェクトおよびV-2プロジェクトは、そうしたソリューションの一例です。このプロジェクトでは、使用済みハイドロフルオロカーボン(HFC)を再生して、未使用HFCが将来発生するのを防ぐことに取り組んでいます。
いつまでにネットゼロ達成が必要?
地球の温度上昇を(産業革命前と比べて)1.5度未満に抑えるには、2050年までにネットゼロを達成しなければなりません。
IPCCの気候変動2022:気候変動の緩和報告は、地球の温度上昇を1.5℃以下にとどめるためには下記のことが必要だとしています。
- 温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までに頭打ちにする
- 温室効果ガス排出量を2030年までに43%削減する
- メタン排出量を2030年までに約3分の1に減らす
- 2050年までに排出ネットゼロを世界中で達成しなければならない
現時点で2030年までに残された時間は10年を切っており、やるべきことがたくさんあります。国連事務総長アントニオ・グテーレスは、今すぐ行動しなければ、深刻な水不足や前例のない熱波などのシナリオが現実のものになると指摘しています。
パリ協定に基づく国が決定する貢献(NDC)に関する国連の最新レポートは、現在のネットゼロ計画が完全に実行されても、地球の平均気温の上昇は今世紀末までに最高2.1~2.4℃に達するとしています。このレポートでは、このままだと2030年の温室効果ガス排出量が2010年から10.6%増加することも指摘しています。
それでもまだネットゼロ達成は可能
2022年の同レポートを2021年のレポートと比較すると、すべての温室効果ガス排出量の予想値が減少していることがわかります。2021年レポートの予想では、2030年時点の温室効果ガス排出量は2010年比で13.7%増とされていました。
この変化の理由は、同レポートが強調しているとおり、1. 各国の政策の一貫性が向上したこと、2. 各国が掲げる目標値や目標の法令化、などが考えられます。
これは、私たちが進んでいる方向が正しいことを示す明るい兆候です。一段と積極的な行動をとっていくことで、世界はさらにネットゼロ達成に近づくことができるでしょう。
企業がネットゼロ目標を設定する方法は?
企業は「 SBTi企業ネットゼロ基準」に沿って、気候科学および地球の気温上昇1.5℃未満目標に整合した目標を設定することができます。
かつてはネットゼロに対する定義が多数存在し、企業が排出量や進捗を算定する方法も多岐にわたりました。しかし、SBTiが提供するこの基準は、信頼できる単一の情報源と統一された定義を企業に提供することを目的に作成されたものです。
SBTiは、ネットゼロ目標のための基準を定めるとともに、ネットゼロ目標が基準に準拠しているかどうかの検証も行っています。目標検証に要する費用は、1目標につき1,000~9,500ドルです。
企業のネットゼロコミットメントでは、各実行段階だけでなく、組織全体の実行に対する改善業務が必要になります。これには、製造の改善といった大がかりな変更から、紙の無駄をなくすといった小さな変更まで含まれます。
企業はさまざまな種類の短期目標、長期目標を設定することが可能です。
SBTiでは以下のような種類の目標を定義しています。
- 削減総量目標: 大気中に排出される温室効果ガスの絶対値ベースの全削減量。基準年と比較した目標年までの削減総量を指す。スコープ1、2、3が対象。
- 物理的原単位収束目標:部門別脱炭素化アプローチ(SDA)とも言われる。当該企業の生産量に対する排出削減量を指す。スコープ1、2、3が対象。
- 再生可能エネルギー電力目標:再生可能エネルギー電力の積極的な調達目標。スコープ2の削減目標の代わりに用いることができるが、この調達目標が、再生可能エネルギー電力を2025年までに電力調達の80%、2030年までに100%とする目標に沿っていることが条件となる。
- エンゲージメント目標:科学的根拠に基づく排出削減目標を導入したサプライヤーの数。スコープ3のみ対象。
- 物理的原単位目標:生産量に対する温室効果ガス排出削減量。スコープ3のみが対象。
- 経済的原単位目標:企業の財務状況に対する温室効果ガス排出削減量。付加価値当たりの温室効果ガス排出量(GEVA)手法を用いる(「付加価値」は売上収益、売上総利益、または営業利益を参照する)。スコープ3のみ対象。
これらの各種目標には、それぞれプラス面とマイナス面があります。例えば、一番目の削減総量は成果がわかりやすい目標ですが、成果を同業他社と比較することができません。
SBTiは、企業が「企業ネットゼロ基準」に取り組むうえでの重要要件を下記のように規定しています。
- 排出量の早急かつ包括的な削減に注力する。効果的な対策をすぐさま講じることが、地球の気温上昇を抑える鍵になる。
- 短期、長期の両目標を設定する。排出量を2030年までに半減させ、2050年に世界で排出をほぼゼロにすることに貢献するため、企業は削減(目標)の進捗を定期的に測定していく必要がある。
- ネットゼロ到達は、長期目標を達成してから明言する。企業がネットゼロに到達したと確実に言えるのは、自社目標の達成後であり、達成前ではない。
- バリューチェーン以外も対象に含める。SBTiでは、バリューチェーンにおける削減だけでなく、目標対象以外でも気候変動の軽減に取り組むことを奨励。
SBTiは、目標設定のためのリソースとして下記(リンク)も提供しています。
- 中小企業のための簡易な目標設定方法
- 金融機関専用のフレームワーク
- 13セクター向けのセクター別ガイダンス(一部のセクターは策定中または調査中の段階)
企業はどうすれば脱炭素の目標を達成できるか?
企業は脱炭素の中間目標を作成するだけでなく、進捗状況も把握する必要があります。また、気候とサステナビリティに関わるガバナンスを向上させ、気候関連の管理・炭素会計のためのプラットフォームを利用して、脱炭素の進捗状況を透明性の高い方法で把握することも必要です。
気候関連の目標を常に事業の前面に掲げることは、各企業にとって負担が少なくありません。なぜなら、業務を改善し続ける必要を伴うからです。そのためには、進捗を測定する手段を確保し、測定データの透明性を保ちつづけることが、目標達成に向けた企業の前進を後押しするでしょう。
ビジネスにおいて一般的に、KPI(重要業績評価指標)や事業の中間目標を設定することが重要なように、ネットゼロの中間目標を設けることも、企業のネットゼロへの進捗を明確に測定するために重要です。中間目標を掲げることは、何が順調に進み、何の進捗が遅れているかを企業が把握し、目標達成のために何を調整すればよいかを確認する好機になるからです。
排出ネットゼロ達成を目指して組織が変わるためには、コーポレートガバナンスを向上させることが必要です。例えば、インパクトのある決定を下せるリーダーを育成し、リーダーに権限を与えることは、企業のガバナンスにプラスの影響を与えるでしょう。
経済協力開発機構(OECD)の気候変動とコーポレートガバナンスに関するレポートは、以下のようなトレンドを明らかにしています。
- 統一の基準に基づいた企業の開示:こうした開示を行うために、マテリアリティ(財務的マテリアリティ、ダブルマテリアリティなど)の定義が統一されることも必要とされている
- 取締役会の責任:株主の財務的利益とステークホルダーおよび一般の最大の利益との均衡点を見出すことも重視されている
- 株主の権利とエンゲージメント:サステナビリティ・ESG関連ファンドに出資する投資家の増加を受け、気候関連問題の最優先化を企業に要求する株主の権利とエンゲージメントが重要になっている
ステークホルダーは、企業が持続可能性を高め、脱炭素進捗状況開示報告の透明性を向上させることを望んでいます。アセットマネージャーを対象としたPwCのグローバル投資家意識調査から、下記のことがわかっています。
- 79%の投資家が、企業によるESGのリスクや機会への対処は、投資判断の重要な要素であると考えている。
- 76%の投資家が、潜在的な投資機会をスクリーニングする際には、企業のESGリスクや機会がどの程度かを検討している。
効率的なデータ収集および分析の鍵を握るのは、炭素会計と炭素会計プラットフォームです。企業はこのようなソフトウェアソリューションを活用することで、世界で認められた基準に合致した排出関連報告書の作成が容易に行えるようになります。開示報告の場面だけではなく、ステークホルダーに対して透明性の高いデータを継続的に提供していくうえでも有益です。
ネットゼロに関するよくある質問
ネットゼロ目標を掲げているのはどの国ですか?
クライメート・ウォッチ(オンライン情報プラットフォーム)によると、ネットゼロ目標を表明している国は現時点で88カ国です。その多くは、パリ協定へ参加しており、ネットゼロ達成を誓約しています。
ちなみに、パリ協定に署名しているのは194の国と地域(EUと193カ国)です。パリ協定は法的拘束力を有しており、すべての締約国に対し、1. 温室効果ガスの排出削減、2. 最新のNDC(国が決定する貢献)の提出、3. 同じ削減目標に向かって努力する途上国への資金提供、を求めています。
ネットゼロへの取り組みを支援している組織はありますか?
ネットゼロの取り組み支援に注力している組織には、「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」や「ネット・ゼロ連合(Net-Zero Coalition)」などがあります。また、国連のRace to Zero(レース・トゥ・ゼロ)キャンペーンは、2030年までに世界の排出量半減を目指す国際的な取り組みです
ネットゼロを達成できないと、どうなりますか?
海水面の上昇、極端な気象現象や自然災害が、危険な状態を招くおそれがあります。気候変動の影響が最大規模に達せば、私たちの生活が危険にさらされます。
世界経済フォーラム(WEF)のグローバルリスク報告書は、世界の専門家とリーダーを対象に行った調査を基に、国際社会のリスクについて考察しています。今後10年余りで起こりえる世界規模の深刻なリスクとして最も回答の多かった3つのリスクは、1. 気候変動対策の失敗(42.1%)、2. 極端な気象現象(32.4%)、3. 生物多様性の喪失(27%)でした。
私たちはすでに気候変動の兆候を目の当たりにしています。
世界経済フォーラムのレポートによると、スペインの都市マドリードの高温記録(42.7°C)や、米都市ダラスの72年ぶりの低温記録(-19°C)など、世界で記録的水準の異常気温が観測されています。2021年の世界の平均海水面は1993年と比較して97ミリメートル上昇し、1991年から2021年の間の年間平均記録で最高の水準になりました。
気温の劇的な変化は、自然災害の発生頻度を高め、その被害をさらに壊滅的にしています。米国で発生したハリケーン・イアンは、気候変動の影響でどれだけ暴風雨が激しさを増しているかを示す一例に過ぎません。海水面の上昇は荒天時の豪雨を激化させ、結果として洪水のリスクを高めます。
世界の温室効果ガス排出量をゼロに減らすことは、地球の気温を低下させ、地球温暖化がもたらす最悪の影響を回避する一助になるのです。
ネットゼロを達成して気候変動の影響を抑えるためには、今すぐ対策を取ることが重要です。ネットゼロ達成の道のりでは、企業による排出量の測定と報告は必須となります。このデータを基に、企業はベースライン(基準年・基準量)を設定し、社内で排出量の大きい領域を特定し、包括的な脱炭素化計画を作成することができます。
炭素会計ソフトウェアを利用すれば、データ収集および分析のプロセスが、スプレッドシートでの作業に比べて飛躍的に簡単になります。国際基準に準拠してコード化された信頼性の高いプラットフォームがあれば、1. 大部分のデータ収集プロセスを自動化すること、2. 実行可能な分析結果を得ること、そして、3. 世界で認められた(GHGプロトコルなどの)報告基準に沿った開示報告することも可能となります。