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<メディア問い合わせ先>パーセフォニ・ジャパン 武藤 伸之
パキスタンで甚大な被害
国土の3分の1が洪水で水没したパキスタンは、甚大な気候災害の詳細を公表しました。当局によると、この洪水により1,100人以上が死亡、数十万人が避難しており、例年の雨期よりもはるかに規模の大きな人的・環境的災害が発生しているということです。パキスタンの国家災害管理局によると、河川が堤防を越えて氾濫し、多くの村や都市が浸水、洪水は同国人口の7分の1に及ぶおよそ3300万人に被害を及ぼしているそうです。
パキスタンの洪水被害悪化の原因は、記録的な大雨だけでなく、寒冷な北部地域に存在する氷河の融解も関係しています。実は、パキスタンには、世界で最も多い7,000を超える氷河が存在しているのです(極地を除く)。急速な温暖化で氷河の融解が進み、モンスーン降雨と相まって今回の大洪水を招いたのです。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、パキスタンの洪水への緊急対応を強化するため、1億6千万ドル規模の援助を世界に強く訴えました。グテーレス氏は、気候科学者たちとともに、「気候変動が地球を破壊している事実をしっかりと直視すべきです。今、パキスタンで発生している大災害は、明日はあなたの国で起こるかもしれないのです。」と訴えました。
カリフォルニアはいつだって陽気!
米国のカリフォルニア州がもし主権国家なら、インドを抜き、ドイツに次いで世界第5位の経済規模を誇る国家となり得ます。その巨大な規模にふさわしく、カリフォルニアはこれまでずっと、環境面において世界的のリーダー的存在であり続けています。自動車の燃費基準の設定や、厳しい大気汚染規制などがその例です。
カリフォルニア州は今週、5つの法案を承認し、過去最高となる540億ドルの気候変動対策予算を追加することで、またもや世界の環境活動の先駆者となりました。先日、米連邦政府が可決した「インフレ抑制法案」の中で気候変動対策に割り当てられた額は3700億ドルでしたが、この額では足りない分を今回のカリフォルニア州の気候変動対策予算が補うような形になります。
実は同州は、今回の気候変動対策予算の発表の直前に、もう一つ画期的な政策を決定しています。それは、ガソリン車の新車販売を2035年までに全て廃止する、というものです。この種の政策は他の州でも採用される可能性があり、もしそうなれば、よりクリーンな電気自動車への世界的規模での移行が加速することが期待されています。
楽観的なニュースが続くようですが、気候変動対策支持者の思惑どおりにすべてがうまくいったわけではありません。カリフォルニア州が可決に踏み切りたかったSB260という厳格な開示規制法案は、ビジネス界からの圧力によって現実化しませんでした。もしこの法案が可決されていれば、売上高10億ドル以上のすべてのカリフォルニア企業に対して、スコープ1、2、だけでなくスコープ3(占める割合が多い場合)の排出量の測定と報告が義務化されていたところだったのです。判決に際しては、賛成37人、反対25人と、賛成が上回ったものの、18人の議員が非投票だったため、結果的に法案は否決となりました。
すべてをカバーする基準は存在する?
今週、米の企業65社(合計資産は121.3兆ドル)が、ESG開示報告の制度統一を訴えている、というニュースが報じられました。
昨今、急速に発展し続けているこの「開示規制」の現状を簡単におさらいしてみましょう。
欧州連合(EU)は「企業サステナビリティ報告指令 (CSRD)」を制定し、約5万社の企業に対して、サステナビリティ関連情報の開示を義務付ける方向です。
時を同じくして、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)も、サステナビリティ関連情報に関しての国際基準を現在策定中で、EU圏以外では、このISSBの規格が、世界のほとんどの国で採用される可能性が高いと言われています。
ここで問題となってくるのは、EUとISSBの要求基準が異なることです。つまり、企業は取引先の国により、異なる条件に基づいたESG情報を報告しなければならなくなります。
もしそうなれば、開示コストの増加や、情報収集の混乱を招くことになるでしょう。”開示情報をサステナビリティ推進のために利用する”、という本来の目的から外れた現象が起こることにもなりかねません。EUとISSBの今後の動向から目が離せない状況です。
筆者は、サステナビリティ基準の統一運動には長年関わっていますが、今度こそこの試みが成功してほしいと願ってやみません。
カーボンオフセットは”でたらめ”?
コメディアンのジョン・オリバー氏は、自身が司会を務めるTV番組「ジョン・オリバーズ・ラスト・ウィーク・トゥナイト」で、現在の”カーボンオフセット自主規制市場”を皮肉たっぷりに風刺しました。オリバー氏曰く、カーボンオフセットは「でたらめ」であり、企業がカーボンニュートラルを考慮している”ふり”ができる制度である、と。”カーボンオフセット”というまだ未発達な仕組みの弱点をうまくついた笑える風刺ではありました。しかし、”カーボンオフセット”制度が生み出しているプラスの側面には全く触れなかった点が筆者としては残念でした。
米国のサスティナビリティ・メディア「GreenBiz」もオリバー氏の風刺には言及しており、曰く「適切なものもあれば、的外れなものもあった」として、以下のように述べています。
「”伐採の危機にさらされていない森林を保護する”というロジックに対するツッコミは、非常に的を得ていました。しかし彼の発言全体を通じて、オフセットが、グリーンウォッシュ(偽善の環境保護もどき)と同義語であるかのような印象を視聴者に与えてしまったことは評価できません。なぜなら、世界が直面しているエネルギー移行問題において、オフセットはとても重要な役割を担っているからです」
カーボンオフセットの基準を設定するVerra社は、オリバー氏に対する猛反発を自社のウェブサイトに掲載しました。同社は「都合の良いところだけを選んで笑いを取ることは簡単です。しかし、今回の笑いは、”中途半端な理解”、”非常識な見解”、そして”偏った証拠”に基づいていると言わざるを得ません。気候変動危機は深刻な問題なので、その辺りをもう少し慎重に考慮すべきでした。結果的に、カーボンオフセット自主規制市場が気候変動改善に貢献しているという事実が曲解された形になりました」と述べ、オリバー氏が「オチに執着して事実を隠した」と主張しています。
番組内で槍玉に挙げられたアメリカン・カーボン・レジストリ(ACR)のメリー・グレイディ事務局長は以下のように述べています「オリバー氏の発言はオフセットの本質を誤って捉えています。適切に整備されたカーボン市場、そして、信頼性の高いオフセット・クレジットに期待されている役割は非常に高いのです。今後、企業や政府が気候変動アクションを推進していく上で欠かせない要素となるのです」。これとは別にACRは、番組内でのオリバー氏の発言に対して、詳細な反論を発表しています。
「ペイ・フォー・パフォーマンス」制度の導入
今週、米国証券取引委員会(以下SEC)が企業の役員報酬について「ペイ・フォー・パフォーマンス*」の規定導入を義務づけました。これにより、見過ごされがちなESGのG(ガバナンス=企業統治)が今全米で大きな話題となっています。この規定により、企業は直近5会計年度の業績と比較した役員報酬を開示することが義務づけられます。簡単に言うと、今後、上場企業は、業績と役員報酬の関係についての情報開示をしなければならなくなったのです。
*ペイ・フォー・パフォーマンス:業績の達成度に応じて給与額を決定する方法
実は、「ペイ・フォー・パフォーマンス」の規定導入についてはSEC内で比較的前から検討されていました。2010年にオバマ政権が制定したドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法の中の一つに、「ペイ・フォー・パフォーマンス」と類似の規定があり、今回の導入は、その規定を現実化するものでもあるのです。今後は、企業幹部の報酬の透明性の向上、企業業績との連動性の向上が期待されています。SEC内では、規定決定投票が行われ、3対2の賛成多数で規定導入に踏み切ったという背景があります。しかし、その裏では反対票を投じた2名の共和党委員がおり、彼らは、「ペイ・フォー・パフォーマンス」導入により、企業が負担するコストが増えることなどを反対理由としています。
SEC議長のゲイリー・ゲンスラー氏は、「この規定により、株主は上場企業の役員報酬方針を、容易に評価することができるようになります」と述べました。規定導入の対象となる企業は、2022年12月16日以降の会計年度における委任状および情報開示報告書から、「ペイ・フォー・パフォーマンス」を導入することが求められています。
今週の主なESGニュースまとめ:いっき読み
グリーンランドの氷冠の融解がもはや不可避であることが科学的に明らかになりました。この研究によると、地球温暖化により、グリーンランドだけで110トンの氷が溶け、海面が27cm(10.6インチ)は確実に上昇することが判明しました。(元記事リンク)
欧州で最も厳格とされるサステナブル・ファンドの部門においてある特定のポートフォリオ・マネージャーが、一人勝ちを納めていると経済専門通信社のブルームバーグ社は報じています。再生可能エネルギー貯蔵プロジェクトに投資するオランダのトリオドス・インベストメント投資銀行は、EUで最もグリーンな分類であるArticle 9として登録されており、約50%の上昇を記録しています。(元記事リンク)
「COP15」って何?生物多様性に焦点をあてた国連会議です。世界的な生物多様性を構築し、守ってゆく枠組みの作成や、自然界を保護するための各国の協力などを目的に、今年12月にモントリオールで2週間の期間開催されます。(元記事リンク)
ESGは新しいものではなく、むしろ昔からある考え方をキャッチフレーズにしたものであり、「企業は株主との長期的な価値ある関係を構築するために、企業価値を上げる必要があります」と、ザビエル・サーディは米国の民放テレビ局CNBCのウェブ論説で書いています。これは、ESGがますます非難される昨今、ESGが自由市場の妨げではなく、むしろ助けであることを示す興味深い視点です。(元記事リンク)
国際会計士連盟の新しい調査によれば、近年、企業のESG開示報告が増加していますが、それと同様に、開示に際して第三者認証を取り入れる企業の数も増加していることが明らかになりました。(元記事リンク)
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「米最高裁がESG推進に有利な判決」
カーボンニュートラルを目指す政財界の動き」
■著者ティム・モーヒン プロフィール■
パーセフォニの最高サステナビリティ責任者(CSO)
世界的に有名なサステナビリティ/ ESGの専門家 インテル社、アップル社、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)社において、サステナビリティ業務を担当。米環境保護庁(EPA)および米国上院において大気浄化法(CAA)を含む環境政策の策定を主導した経歴を持つ。パーセフォニ参画以前は、世界最大のESG標準化団体である『GRI(Global Reporting Initiative)』のCEOを務める。
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