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<メディア問い合わせ先>パーセフォニ・ジャパン 武藤 伸之 reply-japan@persefoni.com
米最高裁、同国環境保護庁に歩み寄りの判決
先日、米国でインフレ抑制法案(IRA)が可決されました。これにより、バイデン政権が掲げている気候変動対策の影響力が増すことが予想されます。実は、数ヶ月前の7月に大きな話題となった「ウェストバージニア州 vs 環境保護庁(EPA)」の裁判において米最高裁は、環境保護庁(EPA)が持つ、温室効果ガス規制の権限を骨抜きにしているのです。つまり、EPAに「大気浄化法」を行使する権限を与えない判決が下されたのです。
*【大気浄化法】:温室効果ガスの排出を汚染物質として規制する法律
今回のインフレ抑制法案(IRA)の可決により、7月の「ウェストバージニア州 vs 環境保護庁(EPA)」の判決が覆る可能性が出てきたのです。インフレ抑制法案(IRA)では、化石燃料から発生する二酸化炭素を「汚染物質」と定義し、温室効果ガス排出を規制する権限をEPAに返還する条項が明記されているのです。
インフレ抑制法案(IRA)が党員投票で可決される数時間前、共和党は、この条項に関しては予算案で認められるべきではないと上院の議事法専門家を説得しようとしました。しかし最終的にはこの条項は法案に盛り込まれることになりました。これは、発電所から排出される温室効果ガスに対して、環境保護庁(EPA)が規制権限を持つことを意味します。
民主党のトム・カーパー上院議員は、「この条項は、”温室効果ガス=汚染物質”という大気浄化法の主張を明確に表していると思います」と発言しています。これに対し、保守派のテッド・クルーズ上院議員は、「民主党は、最高裁の『ウエストバージニア vs EPA』の判決を覆そうとしている」と、右派議員たちに警鐘を鳴らしました。
インフレ抑制法案(IRA) で何が良くなる?
米国行政管理予算局のレポート調査によると、インフレ抑制法案(IRA)の施行による主なメリットは:
大気汚染が原因とされる、未然に防げる可能性のある病気や死亡、および財産の損害を2050年までに総額1兆9000億ドルまで削減できる
山火事や農作物への損害、そして干ばつ等の気候変動対策予算を、年間およそ1200億ドル削減できる
さらにこのレポート調査では、インフレ抑制法案(IRA)がクリーンエネルギー業界における画期的な雇用拡大を実現し、クリーンテクノロジーの発展に拍車をかけることを予測しています。一方で、プリンストン大学は「REPEAT(リピート)プロジェクト」の中で、現在のクリーンエネルギー業界は”就職売り手市場”が続いており、その中でハイレベルな人材を採用することは、企業にとって非常に難しい、という見解を発表しています。
ESG推進派 vs アンチ・ウォーク(超無関心)派
ESG推進派と、米保守政治家が中心となっている「アンチ・ウォーク(超無関心)」派の争いは今週も続いています。フロリダ州のロン・デサンティス共和党知事は、同州の年金基金の投資運用について、”社会的、政治的、またはイデオロギー的な利益”を基準にすることを禁止する法案を下しました。この決議は、フロリダ州のファンド・マネージャーに対して、投融資先がESG的にクリーンであるかどうかは関係なく、とにかく最大限の投資収益を優先させることを指示するものです。
しかし、この決議に対して、多くの資産運用担当者は、ESGの内容を考慮しない資産運用は、結果的に年金基金をリスクにさらすものであると強い反対を表明しています。ネクストジェンESG社(NextGen ESG)の最高投資責任者であるサーシャ・ベスリック氏は、今回のデサンティス知事の決議について「悲劇的」と表現しました。そして「年金投資の長期運用に際して、ESGの要素がもたらす好影響は大きい。デサンティス知事と彼の取り巻きはそれを全然理解していない」と語っています。
法律事務所 のロープス・アンド・グレイ社(Ropes & Gray) は、全米各州における、アンチ・ウォーク(超無関心)政策を追跡調査しています。同社の共同経営者ジョシュア・リキテンスタイン氏は、今週、ブルームバーグのインタビューで、「フロリダ州とテキサス州には今後ESGを推進していく多額の政治資金がある。しかし、赤色州(共和党支持者の多い州)にはアンチ・ウォーク(超無関心)からESG推進へ、状況を変えるほどの資金が確保できるとは思えない」とコメントしています。
また、「EUはすでにサスティナビリティ開示規則(SFDR)に則ってESGの投資原則を採用している。それなのに、米国でESGを完全に無視する資産運用が推進されている現状は非常にハイリスクである」と指摘しました。
ESGの基本に戻ろう
国連責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)の元CEOであるフィオナ・レイノルズ氏は、今週、以下のような公的発言をしました。
「ESGを根本的に誤解している人が多い。ESGは必要以上に複雑化されており、規制や画一化が行きすぎている。それにより、”形式的に規制さえクリアできればOK”という風潮が生まれており、それは本末転倒だ」
「そうではなく、ESGは、もっとシンプルに考えるべきなのです。つまり、
(地球の)市民として誰もが責任を持っている
皆に倫理的な行動が求めらている
人類や地球環境の損益に繋がるような投資はすべきではない、ということです」
一方、世界最大の資産運用会社である米国のブラックロック社は、米国証券取引委員会(SEC)が提案した”ファンド・マネージャーに対するESG開示規則”に対して以下のような意見を述べています。
「SECがファンドマネージャーに対して、ESGの開示要求をするのはいかがなものでしょうか?開示をしたからといって、ESG先進企業とは限らないからです。投資家が、ESG開示=ESG先進企業と勘違いしないでしょうか?」
「さらにSECは、ESG要素と投資戦略との関連性も開示要求に含めています。投資家のファンド意思決定プロセスにおいて、ESG要素が過大評価される恐れがありますね」
ソーラー発電、ソー・グッド!
近年、太陽光発電の価格は急落し、現在では最も安価な電力源となっています。さらに、インフレ抑制法案(IRA)の中には、ソーラーパネル設置に対する10年間の30%税額控除が含まれており、太陽光発電の安価化が益々進むことが予想されます。新しい税額控除制度と資産価値の上昇により、ソーラーパネルの設置は実質的に無料になったといえます。また、別の調査によると、ソーラーパネルを設置していてもしていなくても、インフレ抑制法案(IRA)によって、米国の平均的な家庭では、電気代が年間で170ドル〜220ドル程度節約できることが報告されています。
EU諸国も太陽光発電に注目しています。これには、ロシアへの化石燃料依存を解消する狙いもあります。昨年ドイツでは、太陽光発電の導入が22%増加し、欧州宇宙機関(ESA)では宇宙空間での太陽光発電が検討されています。
世界的カンバツ被害。ガンバッテ防げるの?
北半球全域に広がる干ばつは、世界で最もパワフルないくつかの経済圏に大きな打撃を与えており、供給ラインを萎縮させ、食糧やエネルギー不足を招いています。
ヨーロッパの干ばつは過去500年で最悪となっており、河川や湖沼の水域の縮小により、「スペインのストーンヘンジ」と呼ばれるガタルペラルのドルメンをはじめ、ドナウ河底に沈んでいた第二次世界大戦中のナチスの軍艦、チェコスロヴァキアの「飢餓の石」などが各地で地上に姿を見せています。その一つは、15世紀に彫られた「飢餓の石」で、そこには「私を見たら泣きなさい 」というなんとも啓示的な文言が記されていました。また、テキサス州では、深刻な干ばつにより、水没していた1億1300万年前の恐竜の足跡が泥の中から発見されました。
中国も、観測史上もっとも深刻な干ばつに襲われています。中国政府はレベル4の緊急事態を宣言し、干ばつによるエネルギー供給の減少を理由として、工場や観光地の照明の電源を落とすことを指示しています。また、中国政府主導の特別チームが編成され、脆弱な作物の保護や、深刻な森林火災(現在数千人が避難中)への対応に奔走しています。
モンスーンがもたらす雨により、米国南部では鉄砲水の被害が相次いでいます。テキサス州では車が水没し、ユタ州ではハイキング客が水に流されました。しかし、気象学者は、これらの大雨が干ばつを解消することはないだろうと述べています。なぜなら、雨期と雨期の間隔が長すぎるし、乾燥した土壌は水分を吸収しにくくなるからです。
今週の主なESGニュースまとめ:いっき読み
SDGの目標が達成できない金融機関が、SDG実現への大きな目標を掲げている団体GFANZ(グラスゴー・フィナンシャル・アライアンス・フォー・ネット・ゼロ)から追放される可能性が出てきました。SDG問題を議論するイベント「ニューヨーク・クライメイト・ウィーク」で発表される新しい計画によれば、GFANZに署名(加盟)した金融機関は、今後、新しく発足した独立調査委員会によって目標達成に失敗したと判断された場合、GFANZから追放される恐れがあります。(元記事リンク)
米国ブラックロック社、シンガポールの投資会社テマセク社、米国クアンタム・エナジー・パートナーズ社は、カーボン・ダイレクト社に6,000万ドルを投資しました。同社は炭素管理(カーボン・マネジメント)プラットフォームをサービスの軸とする大手企業で、グローバルな顧客を対象に、気候変動問題に関する目標達成支援をしています。(元記事リンク)
国際サスティナビリティ基準審議会(ISSB)のエマニュエル・フェイバー議長が、グリーントランスフォーメーション(グリーンな経済への移行)について発言しました。それによると、グリーントランスフォーメーション推進の為に資本市場が果たす役割は大きく、今後はISSB主導による国際的に一貫した開示基準が不可欠になると述べています。(元記事リンク)
ハーバード・ビジネス・レビュー誌は、ESGパフォーマンスを自社のコアビジネスモデルに統合しようとする企業のための6つのガイドを発表しました。同誌は以下のように述べています「World Benchmarking Alliance社が継続調査中のグローバル企業2,000社のうち、大半が明確なサステナビリティ目標を持っておらず、目標を掲げる企業の中でも、目標達成に向けて進んでいる企業はごくわずかだ。この分野の発展にはまだまだ外部的な手助けが必要となるだろう」(元記事リンク)
コカ・コーラ社傘下の、最大手ボトリング会社であるCoca-Cola Europacific Partners社は、炭素を砂糖やプラスチックに変換する技術開発を進めています。そうです、同社に欠かせない砂糖とプラスチックを炭素から作るというのです。カリフォルニア大学バークレー校と共同で、絶賛研究開発中です。(元記事リンク)
企業活動が環境・社会へもたらす影響に関して、各企業は開示報告を求められています。しかし、現在は年一回のESG報告が、今後はリアルタイム報告へ変わっていきそうです。(元記事リンク)
パーセフォニの気候専門家であるマイク・ウォーラスとアニッサ・バスケスによる解説記事。政府調達が企業の気候変動対策を加速させるのはなぜか?連邦調達規則が企業の気候変動戦略に与える影響について知るべき情報をお伝えします。(元記事リンク)
非常に強力な温室効果ガスであるメタンの排出量は、記録的な勢いで増加し続けています。湿地帯の増加と熱帯地方の温暖化が進むことによって、メタン排出量は増加しており、科学的に抑制する方法はまだ見つかっていません。(元記事リンク)
●ティムの厳選ESGニュース バックナンバー●
カーボンニュートラルを目指す政財界の動き」
■著者ティム・モーヒン プロフィール■
パーセフォニの最高サステナビリティ責任者(CSO)
世界的に有名なサステナビリティ/ ESGの専門家
インテル社、アップル社、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)社において、サステナビリティ業務を担当。米環境保護庁(EPA)および米国上院において大気浄化法(CAA)を含む環境政策の策定を主導した経歴を持つ。
パーセフォニ参画以前は、世界最大のESG標準化団体である『GRI(Global Reporting Initiative)』のCEOを務める。
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パーセフォニ・ジャパン 武藤 伸之
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