TCFDとは?なぜ優れたフレームワークなのか?5つの理由【クリスティーナの気候開示トレンド・ニュース】

ESG関連の弁護士として活躍し、米国証券取引委員会(SEC)でもその専門性を活かし、気候開示規制の草案作成などに携わったクリスティーナ・ワイアット。彼女が気候開示規制における世界のトレンドを分かりやすくお伝えするニュースレターです。
Kristina Wyatt
筆者:Kristina Wyatt
2022年9月1日1 min read
2022年11月22日 11:21更新
2022年9月1日更新: 2022年11月22日 11:211 min read

気候開示規制の専門家であるクリスティーナ・ワイアット。彼女が、グローバルの規制トレンドを分かりやすくお伝えします。これを読めば、世界の気候開示規制のホットな情報をいち早くキャッチできます。サスティナビリティ担当者必読。
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TCFDがグローバル基準であるといえる根拠

私は、「気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、TCFD)」の賛同者です。これまで、TCFDについて数多く執筆や講演をしてきました。私がTCFDを評価している一番のポイントは、気候変動関連の総合的で独立した開示フレームワークとして世界中で広く採用されているという事実になります。

米国、EU、英国、日本、シンガポール、カナダ、オーストラリア、そしてその他の国々で規定されているそれぞれの基準は、いずれもTCFDの4つの柱を基として構築されています。それだけでなく、昨年から今年にかけて設立された国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)もTCFDをその活動の軸に据えています

現在ばらばらに存在する報告基準の統一化は今後ますます重要になってくる問題ですので、現状、TCFDが確固とした標準軸になりつつあるのはとても良い兆候だと思っています。

これまでESGの報告基準といえば、アルファベットの略語の乱立で私たちの混乱を招くばかりでしたが、このままTCFD一本化の流れで進んでくれればそれも解消できますね。

さて、TCFDを取り巻く現状をさっとおさらいしたところで、ここからは、より具体的に話を進めます。企業が気候変動による”リスクと機会”を理解し、それらに対処するためのツールとして、なぜ私がTCFDを高く評価しているのか?分かりやすく5つの点に分けてお伝えしていきます。

1. 優れた管理ツールである

TCFDのフレームワークは、合理的で分かりやすい。企業は気候変動による財務上の”リスクと機会”を特定し管理するためにTCFDを活用できます。例えば、

  • サステナビリティ報告に無関心

  • 気候変動に関する目標を設定していない

  • 気候関連データの開示義務がない

そんな企業であったとしても、今後の健全な経営のために、TCFDのフレームワークを活用して気候変動が財務にもたらす影響を検討してみることを私はお勧めします。

2. 企業財務の根本要素に焦点を当てている

企業の社会的役割、そして、企業幹部が株主や社会に対して持つ義務について、多くの人が様々な意見を持っていますが、その評価判断基準は曖昧なケースが少なくありません。

ある人は、企業にとって一番大切なのは、株主への経済的還元であると考えます。一方である人は、企業はより広い範囲で社会へ貢献をするべきだと考える人もいるでしょう。

その点、TCFDの評価判断基準は、企業財務における根本要素に焦点を当てている点が非常に明確です。

TCFDは、社会的に重要な課題である気候変動を軸に、関連事項を広い視野で捉え、気候変動が企業に与える財務的影響に焦点を当てたフレームワークなのです。

3. TCFDの4つ柱は合理的で汎用性が高い

私は以前、弁護士として働いていたのですが、その頃、多くのクライアントから「気候変動に対処するためにまず何をすべきか教えてほしい」という相談を受けました。彼らが求めていたのは、いわゆる”手引き書”でした。TCFDこそまさにその”手引き書”なのですが、その根幹になっているのが次に挙げるTCFDの4つの柱です:

*ガバナンス(管理運営):
気候変動がもたらす財務リスクに対処するためには、どのようなガバナンス(管理運営)体制が必要でしょうか?気候変動による潜在的な財務の”リスクと機会”について、この柱が報告企業に促すポイントは:

  • 取締役会はリスクをしっかり把握しているか

  • リスク管理には適切な経営陣が関与しているか

  • 経営陣が気候変動リスクに関して取締役会にどのように報告しているか

です。

*戦略:
気候変動による財務上の”リスクと機会”を考慮した企業の戦略はどのようなものになるでしょうか?企業によっては、気候変動による財務上の”リスクと機会”を検討してみて、特に何も取り組む必要はないだろうと判断する場合もあるでしょう。また、重大なリスクに気付き、戦略的プランで対処する必要があると考える企業もあるでしょう。戦略を練ることこそが、良いビジネスなのです。

*リスクマネジメント(危機管理)
企業は、気候変動による財務上の”リスクと機会”を調査し、正確に把握できるでしょうか?TCFDを利用すれば、リスクの内訳を分析でき、企業が対処すべきリスクを把握できます。気候変動を起因とする物理的リスクが明らかになれば、それらについて具体案を講じることが可能になるのです。

物理的リスクには2種類あり、悪天候や洪水、火災などの事象によって、脆弱な施設や通常業務が受ける”急性リスク”。そして、干ばつ、貧弱な土壌、酷暑による屋外作業員の健康や作業工程への影響などの、”慢性的リスク”があります。

”急性リスク”、”慢性リスク”に続く第三のリスクは、低炭素経済への移行に伴うリスクです。例えば、炭素集約型産業(炭素を多く排出する)を主とする企業は、株主、消費者、従業員からの脱炭素圧力を考慮した移行リスクに対処しなければならない場合があります。また、炭素税や関税、または、製品やサービスの炭素強度を制限する規制などに直面するリスクもあります。

*指標と目標:
企業は気候変動関連リスクを低減するための戦略実行と目標設定、そして進捗管理を、どのような指標で測定できるでしょうか?これはとても大切なポイントなのです。なぜなら、古くからの格言にあるように、「測定しなければ管理はできない」からです。


4. 利用企業がカスタマイズ可能な柔軟性

TCFDフレームワークを利用して気候変動による財務的影響を厳密に分析することはもちろん可能です。しかし、現在公表されている各企業のTCFD報告書をご覧になれば、リスクや戦略レジリエンスの分野においては、より柔軟性を持った分析がなされていたり、一方では、簡潔で、それほど厳密でない報告例もあります。

厳密か簡潔か、どちらのアプローチを選ぶにせよ、正解・不正解はなく、企業の分析資料として役に立つことは間違いありません。その企業が属する業界や業務形態、そしてリスクマネジメントの方針によって選択すれば良いと思います。

TCFDは、企業が気候変動リスクについて考え、対処するための戦略を構築できる「手引き書」なのです。各企業の個性ができるだけ反映できるよう構成されたその柔軟性もTCFDフレームワークの特徴と言えるでしょう。


5. 自然関連リスクにも対応

ここがTCFDフレームワークの優れた点なのですが、実は、気候関連リスクだけでなく、自然関連リスクにも対応しています。自然関連を含む多岐にわたる問題(潜在的な経済の外部性)による財務的リスクを分析できるのです。

その適応範囲は、人材管理、サプライチェーン内の人権、気候問題以外の環境問題などにも及びます。

つまり、企業はTCFDを利用して、人的資本管理に取り組むためのガバナンス構造の分析をすることもできるのです。多様性、研修、報酬、その他の人的資本に関連するリスクと機会を把握し、それらが、財務的なリスクと機会にどのように結びついているかを分析することができます。

その後、人的資本のリスクと機会に対処するための戦略を策定することが可能になります。同時に、策定した戦略の進捗管理に利用する指標や目標も設定することができるでしょう。

これらの分析結果は人的資本に関するガバナンスにつての検討材料となり、社内(取締役会含む)でこの問題を適切に取り扱うことができるのです。

ここまで、TCFDの良い部分ばかりをご紹介してきました。でも、私はTCFDからは一銭ももらっていないことを読者のあなたに誓います。先にも述べた通り、いち賛同者としての意見を述べているまでです。

色々あった今年も残り数ヶ月ですが、グローバルの気候変動規制は、まだまだ活発な動きを見せています各国・各地で、気候変動関連の開示規制が次々と誕生しているようです。

そんな中、一体何から手をつけるべきか、頭を悩ましている企業のサステナブル担当者も少なくないのではないでしょうか?

もしあなたがその一人だとしたら、あえてアドバイスさせてください。まずは、ざっくりで構わないので(もちろん詳細なのに越したことはありませんが)組織の温室効果ガス排出量を測定し、ホットスポット(排出量が多い分野)となっている排出源を把握することをお勧めします。

そして、その情報をTCFDフレームワークに当てはめて、自社の気候関連の財務的リスクと機会を顕在化してみてください。その後、リスクと機会に対する対処案を策定するのです。この一連のやり方はとてもシンプルですが、あなたの組織にメリットをもたらす経営分析行為となるでしょう。開示要求対応ツールとしてTCFDを利用するのとは違った使い方ですが、全ての企業にお勧めしたいです。

世界各国の規制関連ニュース

【オーストラリア】

オーストラリア準備銀行が企業に強く要請:気候変動へ早急な対応をしない場合は法的措置も


オーストラリア準備銀行(RBA)は、銀行や企業に対して、気候変動による財務リスク管理を始めない場合、法的措置にを取ることになると警告しました。

オーストラリア準備銀行(RBA)の国内市場責任者は、「銀行・企業は物理的リスクと移行リスクについて開示報告する必要がある」と述べ、「対応しない場合は”深刻な”結果をもたらすだろう」としました。

移行リスクのうち最もスケールが大きいのは、世界有数の化石燃料輸出国であるオーストラリアが、将来的に化石燃料の輸出量を減らすことによって起こりうる経済的損失となります。過去5年間、オーストラリア準備銀行(RBA)は、同国の他の金融規制機関とともに、気候関連リスク開示報告規制案についての検討を続けています。


【カナダ】

「海岸保護法(CPA)は、気象変動対策には使えない」識者が述べる

気候変動の影響が各地で見られる中、世界中の沿岸部にある住宅や企業は、海面上昇の危機にさらされています。この問題に対処すべく、カナダ政府は、海岸保護法(CPA)制定の最終段階に入っています。この法律では、海岸線と(新たに建てられる)建築物との距離が規定されることになっています。

カナダ政府は、海岸保護法(CPA)の主なねらいについて、土地所有者と沿岸の生態系の双方の保護、としています。しかし、この法案には海水が到達した場合に環境に悪影響を及ぼす浄化槽や下水道、井戸に関する規定が十分に盛り込まれていないとして批判を集めています。

批判する識者たちの意見としては、「まずは早急に海岸保護法の制定を。そしてその後に、浄化槽、下水道、井戸に配慮した別の法案の導入を」というのが一般的となっています。

【中国】

排出量算出会計システムの標準化を急ぐ中国

中国は、排出量算定・認証システムの標準化を、国家優先事項とする計画を発表しました。まずは、鉄鋼、金属、建材、精製・石油化学・化学等の排出量集約型産業(排出量が多い産業)に対する規制基準作成を加速させるとのことです。これらのセクターに属するすべての企業は、2025年までに「中国炭素コンプライアンス市場」に登録されることが予定されています。

中国国内でトップクラスの経済プランナーを含む環境省、統計局が舵取り役となり「中国炭素コンプライアンス市場」の制定に関してアクションプランを発表しています。

このアクションプランによると、まず、業界団体・関係機関が力を合わせて、排出量算出・認証の全般的な方法論を完成させることが義務付けられたとあります。この方法論の定義は「カーボンニュートラル実現に向け、国として炭素会計に取り組むため、信頼できる科学的な方法論」となっています。

【台湾】

年次報告書の気候データ併載を義務化へ

台湾は、温室効果ガス排出量を含む気候関連データを年次報告書や目論見書に記載することを企業に義務付けることになりました。今年の3月に発表された台湾金融規制委員会(FRC)の決定によると、この義務の対象となるのは鉄鋼やセメントなどのセクターに属していて100億台湾ドル以上の売上がある企業と、50-100億台湾ドルの売上がある企業で、前者は2022年度の年次報告書から、そして後者は2025年からの規定遵守が求められるとのことでした。

その後、農業金融局(FCA)が発表した、より詳細な規制によると、上場企業は1年間の猶予期間後に2024年から年次報告書での気候関連情報開示が義務付けられるとのことです。実はこの開示規制は、TCFDを基準にしており、企業は気候変動による財務上の”リスクと機会”、戦略、ガバナンス、指標と目標に関する開示報告をする必要があります

【米国】

石油・ガスのリース問題:混乱する連邦政府

バイデン政権は、石油リース規則に関して右往左往しているように見えます。バイデン政権は、石油・ガスリースの一時停止を政権発足当時から公約として掲げており、それを受けて先週、第5連邦巡回区控訴裁判所が、連邦政府に対して石油・ガスリースの一時停止権限を認めました

ところが、この判決は「インフレ抑制法案」に大統領が署名した翌日に下されたのです。そして「インフレ抑制法案」には、連邦政府に石油・ガスのリース入札を義務付ける項目が盛り込まれています。米内務省は、200万エーカーの公有地と6000万エーカーの連邦水域を石油・ガス掘削のために毎年リースしなければならない、というものです。

バイデン政権は、石油リースの一時停止を諦め、政治的妥協にひとまず応じた形でしょうか?

カリフォルニア州の気候情報公開法案、議会を通過せず


カリフォルニア州の気候企業説明責任法(CCAA, Senate Bill 260)は、カリフォルニア州上院で可決されたものの、下院では1票足りず、可決には至りませんでした。法案提出者のスコット・ウィーナー上院議員は、来年に再提案することを公約しました。

【国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の動向】

65の企業・組織が、気候規制統一化を求める書簡に署名

有力投資家、大企業、大手会計事務所からなる65企業・機関は、持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)、国連責任投資原則(PRI)、国際会計士連盟(IFAC)を通じて、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、米国証券取引委員会(SEC)、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)の3組織に対して、要請文書要請を提出しました。内容の趣旨は「ISSB、SEC、EFRAGが連携力を強め、サステナビリティ関連報告に関するグローバル基準を早急に定めるべき」となります。

■著者クリスティーナ・ワイアット プロフィール■

パーセフォニ参画前、米国証券取引委員会(SEC)のコーポレートファイナンス部門にて、気候・ESG担当の主席弁護士を務める。気候関連開示レポートの査定業務の指揮、規制策定チームのリーダーとして気候開示規制の草案を作成することなどを主な職務とする。また、欧州委員会の国際部と密接に連携し、世界各国の規制当局や基準設定者と定期的に意見交換も行う。さらに、米国財務省をはじめ、連邦政府機関からの様々な案件にも対応。SEC参画以前は、レイサム&ワトキンス法律事務所にて、主席弁護士とサステナビリティ部門ディレクターを務める。デューク大学の文学士号、コロラド大学の法学博士号、そしてエール大学にてサステナビリティのMBAを取得。

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