カーボンニュートラルを目指す政財界の動き【ティムの厳選ESGニュース】
世界的に有名な ESGの専門家、ティム・モーヒンが厳選してお届けする週刊ESGニュース。
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これを読めば、世界のESGの流れをいち早くキャッチできます。サスティナビリティ担当者必読。
持続可能な未来に向けた資金投入先
まずは「グラスゴー金融同盟(GFANZ)」という組織について、少しおさらいしておきましょう。聞きなれない名称かもしれませんが、GFANZは、SDG実現に向けて大きな目標を掲げている組織であり、広範囲な領域を網羅しています。、GFANZに属する金融機関は現在450以上となり、合計で130兆ドル以上もの資産を管理しています。昨年11月にグラスゴーで開催されたCOP26において、2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言し、数兆ドル規模の資金が投入される予定です。
素晴らしく革新的なプランです。、ほとんどの企業は、このような野心的ともいえる目標を達成するためのはっきりした計画を持ち合わせてはいないでしょう。しかし、GFANZの「ポートフォリオ・アライメント」報告書は違います。この報告書の目的は、「ポートフォリオ企業が気候変動対策にしっかり対応しているか。金融機関がその実態を把握するための、信頼のおける指標の確立」をグローバルで推進することです。そして、金融機関がカーボンニュートラル目標達成に向けた進捗を把握するための標準的な方法が解説されています。
GFANZのメアリー・シャピロ副会長は、以下のように述べています。「気候問題に対応するため、経済をどのように移行させてくのか?それに対する世界の目はどんどん厳しくなっています。各企業の早急な行動が今まで以上に求められています。」「カーボンニュートラルへ移行してくために、金融機関は、自らの投融資が気候変動にどのような影響を与えているのか、それをしっかり把握する必要があります。そして、それには適切な算出メカニズムと指標が必要になります」
この業界の王様の名前は「信頼性」
GFANZが掲げている新しい指針の肝となるのが「具体的で信頼性の高いフレームワーク」です。これは、投融資先企業のCo2排出削減目標の信頼性を評価するフレームワークとなり、様々な評価基準には以下が含まれます:
SBTiなどの第三者機関による検証
役員報酬との関連性
目標達成のためのロードマップや資金調達目標
この「ポートフォリオ・アライメント」報告書には、アクサ、UBS、日本の年金積立金管理運用独立行政法人、ロッキーマウンテン研究所などのケーススタディが含まれています。報告書の編集作業は今年の9月12日まで続けられる予定で、その後、GFANZは、11月にエジプトで開催されるCOP27に先立ち、最終報告書を公表する予定です。
米国史上最大の環境法が成立
米バイデン大統領は就任以来、多くの批判的報道に晒され、支持率も低下の一途を辿ってきました。しかしこの夏、復調の兆しを見せています。
超党派のインフラ投資計画法案の可決、超党派の銃規制法の可決、CHIPS法(米国内の半導体生産への補助金)可決、燃料価格の緩和、アルカイダへの反撃など、ここにきて、政治的勝利が続いています。、そしてその勢いは、今回、バイデン大統領が「インフレ抑制法案(IRA)」に署名したことで最高潮に達しました。
予算は7000億ドル規模の「インフレ抑制法案」は、”米国史上最大の気候変動対策”として大きく注目されています。米国は、パリ協定に沿って2030年までに炭素排出量を50%(2005年度比)削減するという公約を掲げていましたが、その公約実現への切り札として期待されています。
750ページを超えるこの法案には、
石炭火力発電所を閉鎖させるための100億ドル予算
土壌や森林など自然の二酸化炭素吸収源を保護するための50億ドル予算
など、これまであまり注目されることのなかった重要条項が含まれています。
この法案が指摘しているもう一つの重要トピックとして、クリーンエネルギーを使用することによる健康上の利点があります。ある研究によると、「インフレ抑制法案」により空気がきれいになることによって、3,900人もの予防可能な死亡を防止でき、10万人の喘息発作が治まると推定されています。しかし、ポジティブな意見の一方で、輸入関税がソーラーパネルの価格を押し上げるという批判や、二酸化炭素の回収・貯留技術への資金提供は結果として、(炭素排出量の主たる源である)化石燃料産業を支援する結果につながるのではないか、といった懸念の声も上がっています。
熱波襲来
昨今の猛暑により、水不足や森林火災が深刻な問題になっています。最近の研究によると、森林火災によって毎年失われる樹木の量は2倍になったそうです。昨年だけで、なんとポルトガルの国面積と同じくらいの森林が失われた計算になります。別の見方をすると、一分間につきサッカー場の面積約16倍もの森林が失われていったのと同じです。(ちなみにポルトガルは現在未曾有の森林火災に見舞われています)
この夏、北半球の各地では干ばつが原因で数多くの問題が発生しています。米国では、コロラド川が過去最低に近い水位まで下がり、アリゾナ州とネバダ州では水の使用規制がかけられました。一方で、コロラド川に依存しているのはアリゾナとネバタだけではないのですが、その他7つの州は、この使用規制には同意しませんでした。同様に、中国でも干ばつが水の確保に大きな影響を与えています。長江が干上がって貯水量が減り、水力発電用ダムによる供給が不足したことにより、計画停電が発生しています。その結果、中国は石炭火力発電の規模を増加させています。さらに、気候工学を駆使した人工降雨技術の運転も試みており、これには賛否両論が分かれています。
米国では、2022年は猛暑となりましたが、このまま温暖化が進行すると、2053年にはテキサス州からウィスコンシン州までの地域に住む、米国全人口のほぼ3分の1にあたる人々が「酷暑地帯」に住むことになりそうです。非営利団体ファースト・ストリートファウンデーションの最新データによると、現在は、暑さのピークとなるのが年間7日間ありますが、30年後には年間18日間に増加すると予測しています。
対ESG戦争
気候変動対策やESGに配慮した投資戦略を採用する企業や金融機関が増える一方、その流れに逆らう投資家もいます。バイオテクノロジー企業「ロバイト・サイエンシズ(Roivant Sciences)」の共同設立者であり、書籍『Woke, Inc』の著者でもあるヴィヴェック・ラマスワミー氏は、”アンチESG”を掲げる団体「ストライブ・アセット・マネジメント(Strive Asset Management)』を共同設立しました。企業の気候変動活動に対して反発し、化石燃料への投資を強化することが狙いです。ちなみに、主に石油産業の指数と連動している「Strive US Energy ETF(上場投資信託)」の注意書として、”化石燃料衰退化の可能性”が記されていることには矛盾を感じずにはいられません。
”アンチESG”のラマスワミー氏は、ESG投資との戦いを全面的に打ち出すことによって、政治的右派の代表格となりました。しかし、ESG専門家であるロバート・エクルズ氏(英国オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクール教授)が「ラマスワミー氏の発言やアプローチは極論であり”過激で根拠がない”」と表明するなど、ラマスワミー氏への批判は少なくありません。エクルズ氏は、ESGの主点は政治的なものではなく、「企業が価値を創造するための指標」である指摘しています。
「ESG」という言葉が政治的な意味合いを強める中、エクルズ氏のようなサステナビリティ推進派からは、今後、「ESG」という用語を使用するのをやめて、もっと政治色が薄い言葉に置き換えようとする主張が上がっています。
エクルズ氏はブルームバーグのインタビューで、「この言葉自体にはもう価値がありません。視点を変える必要がありますね。」と指摘しています。一方で、大手投資家たちからは、ESGの定義が不十分であるという指摘が出されています。サステナビリティ推進に関して、「Strive US Energy ETF(上場投資信託)」や右派政治家たちの反発を食い止めるためには、”ESG”に関する具体的な定義や規制の設定が必要であるという声が上がっています。
■著者ティム・モーヒン プロフィール■
パーセフォニの最高サステナビリティ責任者(CSO)
世界的に有名なサステナビリティ/ ESGの専門家
インテル社、アップル社、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)社において、サステナビリティ業務を担当。米環境保護庁(EPA)および米国上院において大気浄化法(CAA)を含む環境政策の策定を主導した経歴を持つ。
パーセフォニ参画以前は、世界最大のESG標準化団体である『GRI(Global Reporting Initiative)』のCEOを務める。
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パーセフォニ・ジャパン 武藤 伸之
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