TCFDシナリオ分析とは?

TCFDシナリオ分析とは気候戦略の構築と気候リスクの評価に欠かせない作業の一つであり、TCFD(Task Force on Climate-Related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に含まれる重要な構成要素でもあります。

気候変動はこの先数年、数十年にわたって進行していくことが予想されます。しかし、それが果たしてビジネスにどのような影響を与えるのかについての確かな情報はありません。そこで用いられるのがシナリオ分析です。将来の状況を複数想定し、それに対して計画や戦略を立てます

今後の気候変動の程度や時期については不確定要素が伴います。ですから、起こり得るさまざまな事態に対して計画を立てることにより、組織がさらされる可能性のある気候変動リスクを緩和すると同時に新しい機会を生み出すことが「TCFDシナリオ分析」の目的となります。

TCFDではシナリオ分析を用いて将来の見通しについてあらゆる可能性を探り、それらに照らした戦略を立て、年次気候報告書の中でその結果を開示することが推奨されています。

適切と思われる将来のシナリオを設定することによって、気候変動よって予想されるさまざまな物理的リスクや移行リスクを検討し、企業活動や財務状況にどのような影響が及ぶかを判断することができるのです。

シナリオ分析には定量的な分析、定性的な分析、両者を組み合わせた分析の3種類があります。

定性的シナリオ分析では、数値化ができない動向(例:政治の動き)に着目します。

定量的シナリオ分析では数値データや数値モデルに着目します。例としては、世界の気温が2⁰C上昇した場合に起きるであろう気象パターンや海面上昇などです。

意味のあるシナリオを設定する鍵は、一貫性のある論理的アプローチです。気候変動の進行とともに自社の将来の在り方がとのように変化する可能性があるのか、合理的な仮説を土台にシナリオ作成する必要があります。

米国証券取引委員会(SEC)で間も無く施行される予定の規制をはじめ、世界で広がる気候関連情報の開示義務化の流れTCFDのガイダンスに沿った内容に集約されつつあります。

TCFDフレームワークは近年、瞬く間にこの分野の絶対的グローバルスタンダードとなりました。TCFDシナリオ分析をなぜ、いつ、どのように行うのか、世界中の企業にとってその知識を身につける重要性が増しています。

企業・金融機関が、TCFDシナリオ分析を行うべき理由とは?

先の見通せない世界において、気候リスクは財務リスクと同義語になっています。

気候変動が自社の事業活動に与える物理的影響を把握するにはシナリオ分析が有用です。影響は海面上昇や予測できない気象パターンとして現れることもあれば、低炭素経済に向けた世界的移行から生じる影響もあります。

包括的かつ信頼性の高い一連のシナリオ分析を行うことによって、企業は意志決定の精度を高めることができます。意志決定者は、多くの情報をもとに戦略を立て、さまざまな起こり得る結果に対しての適応力を高めることが可能になります。

シナリオの進展を追跡し、モニタリングすることができ、気温上昇や温室効果ガス排出量の傾向などに応じた軌道修正も可能です。また、ESG年次報告書の中でシナリオ分析を開示することによって、企業としての気候関連リスク・機会評価の堅実性を投資家やステークホルダーに知ってもらうことができます。そして、投資家らはその情報を基に企業比較を行い、投資判断に役立てることができます。

TCFDシナリオ分析で検討すべき気候関連リスク・機会とは?

まさに今からシナリオ分析に取り掛かるという場合は、まずは定性分析に絞って始めるのがよいかもしれません。

分析結果を踏まえて、予想される将来のナラティブ(ストーリー)を作成します。定性分析を複数行い、ノウハウが蓄積されてきたら、数値データや数値モデルを使った定量的シナリオ分析に発展させるとよいでしょう。

シナリオ作成に慣れていな時点では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)EIA(米国エネルギー情報局)既存モデルを参考にされることをおすすめします。

自社の状況に合ったTCFDシナリオ分析をするためには、自社の気候関連リスク・機会を評価する必要があります。気候関連リスク・機会は一般に、「移行リスク」と「物理的リスク」の2種類に分類されます。

物理的リスクとは、気象パターンの変化や頻発するより深刻な気象事象などを指します。事業活動やサプライチェーンが止まったり、混乱したりすることによって企業に影響が及ぶ可能性があります。

移行リスクとは、低炭素経済に向けた市場やテクノロジーの変化、気候変動に関する対応や情報開示を求めるステークホルダー(顧客など)からの圧力に伴うレピュテーションリスク(口コミリスク)、そして、炭素開示や炭素税などの法的リスクなどを指します。

TCFDシナリオ分析の手順

シナリオ分析の中身は企業ごとに異なります。セクターや産業、活動地域、サプライチェーンの展開場所、組織構造、主要なステークホルダーの構成などにより内容が変化します。気候関連リスク・機会に関わるビジネスインパクトを評価する場合は、これらの要素を漏れなく考慮する必要があります。

自社のリスクと機会に特化した信頼性の高いシナリオ分析を行うには、次の6つのステップを参考にしてください。

  1. ガバナンス体制の確認 - シナリオ分析を組織の戦略に組み込み、内部・外部の然るべきステークホルダーを巻き込みます。

  2. 気候関連リスクのマテリアリティ評価 - 評価に基づき、自社の経営または財務にとって重要性の高いファクターを特定します。

    1. 低炭素経済への移行に伴い、市場やテクノロジーにどのような変化が予想されますか?

    2. 気候関連リスクにさらされた場合、自社の評判や評価にどのような影響が予想されますか?

    3. どのような物理的リスクに影響を受ける可能性がありますか(例:洪水など)?

    4. どのような政策または法規制の動きが事業活動に影響する可能性がありますか?

  3. シナリオ範囲の特定 - 気候に関して予想されるさまざまな結果を検討します。移行リスク(例:炭素税など)も、物理的リスク(例:水が不足している地帯における水の確保など)もすべて考慮してください。

  4. ビジネスインパクトの評価 - 業務コスト、規制対応コスト、サプライチェーン、事業中断などの観点から各シナリオの影響を評価します。

  5. 今後の対応を判断 - 各シナリオに照らした対応を検討します。例えば、新規技術への投資、ビジネスモデルやビジネスプロセスの変化、資産運用構成の見直しなど。

  6. 文書化し、開示 - シナリオ分析プロセスを文書化し、年次サステナビリティ報告書で開示します。

どんなシナリオ分析ツールを使うべきか?

企業のTCFDシナリオ分析をサポートするツールが幅広く提供されています。

そのうちのいくつかはClimate Information Portal (CLIPC)のように企業全般に適したツールです。CLIPCは野外観測活動、人工衛星、気候モデルなどから膨大なデータを収集しており、あらゆる企業に及ぶ可能性のある気候関連の影響を総合的に捉えることができます。

各国で進む気候関連情報の開示義務化はTCFDフレームワークを中心に集約しつつあり、シナリオ分析を理解し、実行する重要性が増しています。

パーセフォニでは気候政策の今後の方向性におけるTCFDの役割をより深く捉えるために、3つの主要な気候政策の比較分析を行いました。それらとTCFDフレームワークとの共通点や追加項目を検証し、分析結果をまとめたレポートがこちらす。

今後の気候関連規制におけるTCFDの役割(英語版のみ)」をPDF無料ダウンロードできますのでぜひご一読ください。


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